「存在のない子供たち」で描かれる血縁関係のある家族の中で悲しみを経験する人がいるのと異なり、血縁関係のない者同士が家族となって一緒に楽しく暮らすという流れは、日本の枝裕和監督の作品を連想させる。「存在のない子供たち」は、レバノン版の「誰も知らない」のようで、子供が両親にほったらかしにされて育つという要素を見ることができ、さらに、「万引き家族」で描かれた兄妹が一緒に万引きするという要素も見ることができる。
血縁関係のある家族が子供に、愛や楽しみではなく、避けることのできない苦痛をもたらす。一方、血縁関係のない人と暮らすことになり、その生活から楽しさを感じる。前者は「誰も知らない」の中で両親に完全にほったらかしにされ、自分たちだけでなんとか生き延びなければならに子供たちで、後者は「万引き家族」の中で血縁関係がないにもかかわらず、一緒に生活感あふれる暮らしをする子供たちだ。そして、「存在のない子供たち」で、少年ゼインはその両方を経験する。
中東の貧しい人々や難民問題にスポットを当てた地域色が非常に色濃いこのマイナー作品が世界で人気となり、業界関係者の間でも好評を博している理由は、非常に「リアル」だからだろう。社会の底辺で暮らす人々の苦しみが実話で描かれ、見る人はやるせなさを感じると同時に、強い同情を覚える。
このようにノンフィクションであることが同作品が非常にリアルに人の心を打つ理由だ。
少年ゼインは貧しさと暴力に耐えながら一生懸命生き、その小さく細い体で、子供には似つかわしくない重圧に勇敢に耐える。それでも、残酷すぎる環境の中で、妹と黒人の弟を守ることができず、意地の悪い大家をナイフで刺すだけでは、その復讐は終わらず、「僕を産んだ罪」で両親を告訴する。
現実の世界のゼインはシリアの難民で、2012年に戦争から逃れるために家族でベイルートに逃げ、貧民窟で暮らしていた。制作チームがゼインに会った時、彼は自分の名前さえ書くことができなかった。映画のほとんどのシーンやストーリーはゼインの実話が基になっている。ゼインは中国の多くの人の心を打ち、あるネットユーザーは豆瓣に「実際にこの世にある苦しみだから、こんなに自然に伝わってくるのだろう」と書き込んでいる。
メガホンを取ったナディーン・ラバキー監督は、キャスティングに関して、「彼らは役者ではない。彼らは映像の中で自分の苦しみ、自分の人生を表現しているだけだ。彼ら一人ひとりが映画にそれぞれの人生の経験、生活で直面する各種問題を注入してくれた。彼らは演じているのではなく、自分のリアルな人生を表現しているのだ」と説明する。ゼイン役をはじめ、出演者のほとんどはゼインに似た境遇にある素人が演じており、レバノンの秩序が崩壊した社会の現実が描き出されている。彼らの背後には、貧しさに苦しむ無数の子供たち、戦争や混乱で離れ離れになってしまった家族がいる。
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