中国で4月24日に公開された「アベンジャーズ/エンドゲーム」の興行収入が今の時期の興行収入の大部分を占めていることに疑いの余地はない。しかし、映画スターが出演しているわけでも、驚くような映像技術が駆使されているわけでもないレバノンの映画「存在のない子供たち」がダークホース的存在となってその興行収入を伸ばしている。今月6日午後の時点で、その興行収入は1億7000万元(1元は約16円)に達し、口コミでも中国のコミュニティサイト・豆瓣で「2019年のベスト作品」と評価されている。
「存在のない子供たち」の主人公である12歳の少年ゼインが、「子供を育てることができない大人には、子供を産んでほしくない。子供の頃の思い出と言えば暴力、ののしり、鎖や棒、ベルトで暴力を振るわれた感覚だけだ。その暮らしは全てはシラミのようで、ボロボロの靴のほうがまだ美しい」と「僕を産んだ罪」で両親を告訴した際に、法庭で話すそのセリフに多くの人が涙をこぼしている。
原題「カペルナウム」が「存在のない子供」となった理由は?
「存在のない子供たち」の原題は「カペルナウム」。「聖書」に出てくる地名で、今日のイスラエルのテル・フームに位置し、荒廃した土地が広がっている。「聖書」によると、ベツレヘムで生まれたイエス・キリストはカペルナウムを伝道の拠点とし、そこは第二の故郷とも呼ばれた。英語やフランス語の「カペルナウム」には、「反復の地」や「混乱、不規則」などの意味が含まれる。しかし、文化や歴史が異なり、共感を得にくいことから、映画の内容とマッチさせるため「存在のない子供たち」というタイトルが翻訳として採用されたようだ。
同作品は、レバノンの首都ベイルートを舞台にしている。ベイルートとカペルナウムには、約2千年前の西暦初期は、肥沃な三日月地帯に位置していたという共通点がある。しかし、レバノンやシリア、イスラエル、パレスチナなどかつての聖なる地は現在、荒廃している。
マイナー作品である同作品は、ほんの一握りの人しか経験しない不幸な物語を描いているものの、難民やスラム街、麻薬密売、未成年者の結婚、生まれ育った家庭、不法就労、戸籍を持たない子供、人身売買、子供を産み育てる権利はあってもそれが難しい環境など、世界の各地で実際に起きている問題を描いているとも言える。レバノン、ひいてはアラブ諸国で苦しむ貧困層や根深い闇が、「存在のない子供たち」で一つ一つ明らかにされていると言ってもよい。
実話を基にリアルに描かれた苦しみ