サンゴは海洋の生態系において最も重要でありながら、その繁殖が最も難しい動物の一つだ。しかも海洋生物の25%がサンゴ礁に依存して生息している。しかし、ある研究によると、海水温上昇や酸化が原因で、10年以内にはサンゴ礁の成長が止まってしまうと予想されている。そのため、サンゴ礁の保護が急務となっている。
海底のサンゴ。
深センは経済特区であるだけでなく、世界のサンゴの種の半分以上が生息するコーラル・トライアングルの北側に位置し、中国では最もサンゴの生長に適した地域となっている。1984年生まれの福建省出身の男性・廖宝林さんは、海底のサンゴが破壊され、一刻の猶予もない状況であるのを目にして、5年前、当時の仕事を辞め、広東海洋大学深セン研究院にやってきて、サンゴの生態系修復について研究を行うようになった。そんな廖さんが所属するチームはこれまでに、深セン周辺海域で6万株のサンゴを移植してきた。深センは今、中国の一線都市で唯一、良好なサンゴ生態環境を有する都市となっている。
廖さんは大学生の時に水産養殖を専門に学び、2006年に卒業して、広東徐聞サンゴ礁国家級自然保護区管理局に就職した。
10‐20年前、人々のサンゴ保護に対する意識は低かった。廖さんは、保護区管理局に就職し、初めて海に潜ってサンゴを調査した際、目にした状況に愕然としたという。
一部のエリアではサンゴの破壊は深刻で、海底全体が「荒漠化」し、海底の至る所にサンゴの死骸が散らばっていた。また、養殖や汚染物質排出が原因で、海の栄養塩の濃度が高まり、サンゴが白化したり死滅したりしていた。さらに一部の海岸工事により海の浮遊物や泥、砂が増え、サンゴの表面を覆い、窒息死を招いていた。
カラフルで幻想的な世界を作り出すはずのサンゴ礁が海底で「荒漠化」しているのを見て、廖さんは悲痛な思いにとらわれた。そして、2015年に、保護区管理局の仕事を辞め、広東海洋大学深セン研究院サンゴ礁生態保護・修復工程技術研究センターで、サンゴの生態系修復に携わるようになった。
海に移植されたサンゴ。
深センでサンゴの生態系修復を行うのには理由がある。まず、太平洋とインド洋がそこで交わっており、インドネシア、フィリピン、パプアニューギニア、ソロモン諸島などを結んだ三角形の海域・コーラル・トライアングルがそこにある。そこは、多種多様な海洋生物が生息するため海のエベレストと呼ばれ、一部の生物専門家は、「生命誕生の中心になった可能性がある」と考えている。深センは北緯22度に位置し、海岸線は230キロ、コーラル・トライアングルの北側に位置する。
サンゴは、その構造や形態に基づいて、イシサンゴ、軟質サンゴに分けられる。イシサンゴは、炭酸カルシウムの骨軸を持ち、水中のカルシウムを大量に消費する。深セン研究院のサンゴチームが繁殖と移植しているのは主にこのイシサンゴだ。
サンゴの繁殖と移植には、有性生殖法と無性生殖法がある。無性生殖法は、植物を挿木するように、枝打ちをして増やす。まず、ドナーサンゴを見つけ、枝打ちし、それを移植する。これは、国際的に最もよく使われている移植方法だ。
廖さんは、「当チームは、サンゴコップと呼ばれる基盤にサンゴを固定している。そして海底に畑の畝のような基地(架台)を作り、そこにサンゴコップを固定している。岩盤に固定することもある。これはサンゴ苗を育てる方法の一つで、苗が育ったら、それを移植する。移植の方法もたくさんあり、釘、水中ボンドを使って固定する方法、岩盤に穴を開ける方法などがある。各海底の状況に最も適した方法を採用している」と説明する。
海底でサンゴの移植作業を進める研究者ら。
廖さんが所属するチームは2006年からサンゴの研究を始め、2009年に、徐聞サンゴ礁保護区でサンゴを育て、2014年から深センでサンゴを移植している。これまでに移植したサンゴは6万株以上という。
「陸上で穴を開けるのは簡単だが、水中となると難しい。海が荒れている時は、作業を数秒している間に水流に流されてしまうことがある。戻ってくるのにも一苦労で、水流が止っている数秒の間に穴を開けなければならない。海底に穴を開けるというのは、簡単なことではなく、30分かかっても、ネジ1本を固定できないこともある。コントロール不可能な要素がたくさんあるため、サンゴの移植というのは本当に難しい。そのため我々のチームでは、海底での作業をするたびに、事前にしっかりと意見交換をして、計画をよく練っている」と廖さん。
近年、保護区では保護が進み、毎年、休漁期間が設けられ、法律・制度も整備され、サンゴ保護のPRも強化されている。そして、さまざまな対策を講じられ、人々の保護意識も高まっており、加えて、サンゴの生態系修復、移植が継続的に実施され、サンゴの生息環境が大幅に改善している。そのため、深センは中国の一線都市の中では、唯一良好なサンゴの生態系環境を有する都市になっている。
廖さんは、「我々のサンゴチームは10年以上の研究を経て、経験を積み、成功例も挙げている。また、関連の先端技術も有するようになっている。海洋生態事業のフロントランナーとなり、この事業を継続的に行い、沿岸生態系をさらに効果的に回復させる手段を編み出し、人類が元々享受すべき生態環境を後代に残したい。これが僕の初心であり、目標でもある。僕たちの世代で、この目標を達成できるかは分からないけれど、このような事業を後代へと伝え続ければ、必ず実現できると信じている」と話した。(編集KN)
「人民網日本語版」2021年5月26日