3つの緩和政策では日本経済は救えない (3)
より注意すべき点は、日本の3つの緩和政策で最も重要な部分は、財政赤字を補填するための通貨の発行にあるということだ。これは表面的には長期的なインフレ観測を推し進める強力な手だてだが、実際には日本の債務リスクの導火線となる可能性があり、債務リスクが爆発すれば、日本国債は投げ売りされ、金利が上昇して下がらなくなる恐れがある。
第三に、3つの緩和政策では輸出効果によって経済成長を効果的に喚起することが難しい。日本は外向型の経済体であり、経済成長は長らく国際貿易に依存してきた。伝達ルートを分析すると、まず3つの緩和政策が大幅な円安を長期にわたって推し進めることは難しいといえる。短期的には外国為替市場で円売りの勢いが強まるが、米国、ユーロ圏、新興市場国が相次いで通貨緩和政策をうち出する中で、日本の緩和政策が優位を保てるかどうかはわからない。また国際市場で金利差が縮小することを背景として、国際的な裁定取引(アービトラージ)の反対売買は長期的な円安にとってマイナスとなる。次に、円安の輸出活性化の効果は市場の期待を下回るとみられる。その原因は、85年のプラザ合意以来の長期的な円高が日本の輸出のエンジンを損なってきたことにある。13年のグローバル経済は低速運転となり、外部需要の伸びは力不足に陥るとみられる。日本の輸出商品の競争力そのものも下降線をたどっている。12年11月末現在、日本の輸出額は6カ月連続で前年同期比マイナスとなり、貿易収支は14カ月連続で赤字になった。
第四に、3つの緩和政策では信頼感を高めることにより経済成長を効果的に喚起することが難しい。安倍首相は3つの緩和政策を強く主張しているが、本質的には3つの緩和政策という政策ツールと政策目標との間には深いレベルの矛盾点が存在しており、3つの政策を同時進行させて急激に緩和を進めるというのは現実性に乏しい。一方では、通貨政策の緩和と為替政策の緩和が同時に大きな力を発揮すれば、円は短期的に国内でも海外でも値下がりする二重の圧力にさらされることになり、国債の発行が困難になり、財政政策の緩和を推進しようとしても制約を受けることになる。また一方では、通貨政策の緩和と財政政策の緩和が同時に大きな力を発揮したなら、赤字融資の傾向と日銀の独立性の喪失により外国為替市場で一大パニックが引き起こされ、ひいては円に極めて大きな流動性のリスクがもたらされる可能性がある。このほか政策そのものにも矛盾があり、日本の政治構造の動きが鈍いために政策への取り組みが期待を下回り、市場の信頼感がそがれる可能性がある。