唯一納得できる、携帯を使ってはいけない理由は「マナー」だ。しかし、問題は多くの日本人がその「マナー」を面倒に感じている点だ。これは決して解決できない問題ではない。できるだけ小さな声であることを条件に地下鉄の車内でも通話が許されるようになれば、周りの人に迷惑をかけずに、マナーを守りながら自分の用事も済ませることができ、一挙両得となるのではないだろうか?
実際には、地下鉄で電話してはいけないというのがマナーというよりは、お寿司を食べたり、着物を着たりするのと同じ習慣、文化にあたるといったほうが正しい。
多くの日本人は確かにマナーを守る。しかし、地下鉄で電話しないというのは、日本人のマナーが良いことの根拠にならないだけでなく、日本社会の他のさまざまな問題とも関係してくる。中には、その根拠を日本人でも説明できない暗黙のルールもたくさんある。そして、他の人がそうしているのだから、自分もそうすればいいと、わざわざその理由を考えることもしないことが多い。▽みんな地下鉄では携帯で電話しないのだから、電話する人はマナー違反▽みんな残業しているのだから、残業は当然で、しない人は多くの人に後ろ指を指される、そして、きつい労働や上司のいじめに耐えられずに自殺する人は、「弱い人」と批判される▽みんな有給を取らないため、有給を取る従業員は仕事がきらい、会社がきらいと見なされるのは当然で、従業員が享受できる正当な権利を守ろうと声を上げる人は誰もいない▽女性は結婚後すぐに仕事を辞めるのは情理にかなっており、結婚後も会社で実力を発揮して、自身の社会的価値を実現している女性は変わり者▽自分もいじめられたから、自分の地位が高くなったりすると、これみよがしに自分より弱い人をいじめても罪悪感を感じる必要はない、といったような暗黙のルールが存在する。
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