東京五輪PR、「復興」で苦慮
2020年夏季五輪の招致に向けて、東京都の招致委員会が「復興」をどう打ち出すか神経をとがらせている。海外に対しては、震災や原発事故に不安を抱かせない配慮が必要だ。一方、被災地から期待は高く、復興を掲げて国内支持率の上昇につなげたい。国内外で二重基準でのぞむ案も浮上する。
「東京での素晴らしい大会に、世界の人々をお迎えできると確信している」
猪瀬直樹都知事は10日、ロンドン市内での記者会見で海外メディアにPRした。ただ、スピーチで「復興」という言葉は一度も使わなかった。
海外メディアの記者からは、東京電力福島第一原発事故の影響を尋ねる質問が出た。「東京は220キロ以上離れているので放射線量はロンドンと変わらない」。猪瀬知事は不安の払拭(ふっしょく)に追われた。出席した記者の一人は「海外からは問題ないと思われていない。影響ないと言い続けなければならないだろう」と話す。
東京都が、国際オリンピック委員会(IOC)に昨年2月提出した申請ファイルでは、テーマの一つに「震災復興」をうたっていた。「スポーツの力が、いかに困難に直面した人々を勇気づけるかを世界に示す」と強調した。
だが、今月8日に公表した開催計画(立候補ファイル)では、競技会場が都心に集中する「コンパクト五輪」を強調し、「復興」の文字は消えた。震災に関しては、震災に直面しても示してきた尊厳や規律といった資質を五輪で高めるという記述にとどまった。
一方で、立候補ファイルとは別の大会報告書がこの日、報道陣に配られた。被災地での聖火リレーや、宮城県利府町の宮城スタジアムでサッカー予選開催など、復興に向けた事業計画が盛り込まれた。
被災地では五輪招致に期待する声がある。仙台市の奥山恵美子市長は「オリンピックが被災地に来ることは被災地を勇気づける大きな意味がある」と期待感を示している。宮城県名取市で被災した小学生23人にサッカーを教える会社員の佐藤雄太さん(30)は「世界のトップレベルの競技が見られるのは励みになる」。
都の担当者は「海外では復興よりも開催能力を強く打ち出した方が得策。一方、支持率アップにつながる国内では復興への後押しを強調する。招致実現に向けてすみ分けが必要なんです」と説明する。
復興に向けた事業の報告書は、国内向けのアピールを想定し、日本語版のみという。(岡戸佑樹、平間真太郎)
asahi.com 2013年1月15日
Copyright 2013 Asahi Shimbun 記事の無断転用を禁じます。