台湾の巨匠・李安監督が台湾・大陸部映画に苦言
「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」でアカデミー監督賞を受賞した台湾の巨匠・李安(アン・リー)監督は10日、台湾総督府に招かれ作家・竜応台氏と対談。自身の映画人生を語ったほか、映画ファンの質問にも答えた。揚子晩報が報じた。
対談の中で、李監督は映画との縁に関して「運命」という言葉を何度も用い、その理由について、映画撮影はほかの事を探してやるよりも容易だし、何より使命感のようなものがある、と語った。「『ラスト、コーション』(原題、色・戒、2007年)の撮影の際には、このような作品は自分が取らなければ、永遠に撮る人がいないと思った」。一方、中国大陸部の映画の話題になると、李監督は「中国には大きな市場がある」としながらも、「いい作品がまだない」と率直に語った。
■台湾の映画界には長期的な計画がない
李監督は「これまでずっと、人の基本的な性格や人との付き合い方に興味を持っている」と語ったほか、「6年間、多くの収入を得ることができ、家でボーっとしたり、シナリオを書いたりして、申し訳ない気持ちだった」と幸運だったことを強調。さらに、「ライフ・オブ・パイ」の撮影のため、台湾に9カ月間滞在した時の事に関して、「ハリウッドの関係者を台湾に連れて行くときは、プレッシャーを感じていた。しかし驚いたことに、台湾には撮影に必要なものが全て揃っていた」と語った。
一方、台湾の映画業界が抱える問題に関して、李監督は、ユーモアを交えながら、「最大の問題は長期的な視野がないこと。みんな孤軍奮闘しており、ノウハウの積み重ねがない。台湾の作品は情熱頼みで、制作のために監督が家を担保に入れたりアルバイトをしたりしている。これは、長期的計画ではない。文化で最も重要なのは、根を生やし、長期的な見方を持つことで、ショーをやっているわけではない」と率直に語った。
竜氏が、映画界での成功を夢見ている人へのアドバイスを李監督に求めると、「映画界には入らないほうがいい」と笑いながら回答。「映画界に入り、励ましや安心感がほしいなら、やらないほうがいい。本当に映画制作をしたいなら、周りの人の提案に耳を傾けず、自分の意見を付き通さなければならない。社会がそのような頑固な人が活躍できる空間をもっと与えてくれることを願っている」と語った。さらに、「李監督の作品がカルチャーショックに満ちているのはなぜか」という質問に対して、李監督は、「小さい時から、大人になるまでずっとカルチャーショックを経験してきた。常に、よそ者として一生を過ごしていると言える。だから、カルチャーショックに興味があり、その中に人間性を見ることができる」と語った。