教育1年長いと年収9.3%増 日大教授ら、一卵性双生児で調査
教育を受けた年数は、その後の年収に影響するか??。「学歴が高い方が知識もあり、高収入のはずだ」「試験重視の日本の教育は労働市場のニーズに合わず、影響ないのでは」。簡単には答えの出せない問題に、乾(いぬい)友彦・日大教授(応用経済学)と中室牧子・東北大助教(教育経済学)が一卵性双生児のデータを使って挑んだ。
教育を「投資」ととらえる経済学には、「教育の収益率」という指標がある。「教育を1年長く受けたら、賃金がどの程度上昇するか」を示す。
年収には個人が生まれ持った能力や家庭環境などの条件も影響する。このため、従来は教育の収益率の推計は困難だと考えられてきた。乾教授らは、そうした条件がほぼ同じと考えられる一卵性双生児に着目。それぞれが受けた教育、年収を比較してみた。
インターネットを利用し、学生ではない20-60歳の一卵性双生児に学歴や収入などを尋ねた。1371組から回答が得られ、一卵性双生児対象の社会調査としては最大規模となった。
一卵性双生児を対象にした類似の調査・研究は1990年代以降、米国や英国などで先行事例があり、こうした国々の収益率は7-10%程度だった。
一方、2011年に発表された中国の収益率は約4%にとどまっていた。研究の担当者は「筆記試験を重んじる教育システムのため労働市場で評価されるような技能や知識を身につけられず、結果として教育の収益率が低くなった」と分析。「教育制度が似ている日本や韓国も同様だろう」と推論していた。
乾教授らの今回の調査だと、日本の収益率は9.3%。中国を大きく上回り、米英などと同じ水準であることが分かった。乾教授は「最近は入試で討論、ボランティアの経験などに重きを置く傾向もあり、必ずしも受験が収益率を低くするわけではないようだ」と話している。
結果は、独立行政法人経済産業研究所のウェブサイトに発表した。今後、それぞれの年収と、通った大学の規模、博士課程の有無、シニア教員への待遇などとの関係を調べ、どのような大学教育が教育の収益率に結びつくかを調べるという。(井田香奈子)
asahi.com 2013年1月10日
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