2.卒論論文作成の意義
a.卒論作成を通じて、学びの愉しさと厳しさを知る。
学生は、卒業論文作成を、単なる卒業要件と捉え勝ちであるが、受動的な大学教育に於いて、学生が主体的に取り組むことができる唯一の機会なので、この機会を活用して、学びの愉しさと厳しさを、是非味わってもらいたいものです。
b.論文の形式要件と実質要件について
論文である以上は、何らかの学術的価値を付加することを求められますが、学士論文の場合は、切り取り方が鋭いか、異なる視点から論じているか等、登山ルートであれば、同じ山でも、異なるルートからの登頂を試みるなど、豊かな発想により、工夫の余地は、多様かと思われます。
したがって、学会の通説を補強することや、少数説を再評価することも、一つの手段であり、先行研究を十分読み込んで、自分の悪い頭を駆使して論述をすれば、立派な学士論文です。
次に、論文作成の三種の神器は、1.当該Themaと自己の履修した科目との密接度が高い。2.当該Themaに関して指導教授が存在する。3.参考文献の閲覧が可能である。の三要件を具備することです。したがって、学生諸君は、自由なThemaで論文を書けると、誤解をしておりますが、自ずとThemaは、限られて参ります。
なお、先行研究の希薄な分野の論文は、避けることが賢明です。
c.学士論文の決め手と独創性とは
学士論文は、Thema選定が、九割の鍵を握る。ーー徐一平先生
材料は、豚肉・馬鈴薯・人参・玉葱であっても、カレーにするか、煮物にするかは、料理人の腕次第です。
また、全体を扱うことは出来ないので、断片を切り取って分析をしますが、その切り取り方が上手であれば、核心に迫り得るので、その切り取り方がポイントであり、これを別の言葉で言えば、Themaの選定です。したがって、論文作成とは、切片を切り取り、全体状況を推測する作業ですが、結果は、切り取った切片の部位に依ります。そこで、核心に迫り得る切片の切り取り方が、学問の成否を左右致します。
そして、核心に迫り得れば、普遍的価値を持つことになり、此れこそが学問の醍醐味である。
なお、細部から全体を推論するのが、現代の学問手法であるが、細分化されて専門領域が狭まった結果、知への懐疑や大学教育の限界が、指摘され始めております。
それは、そもそも「知」とは、古代ギリシャの時代から、人生を豊かにするものであり、知が専門化や細分化されることにより、知が本来持つ豊かさが、失われてしまうからです。
そして、教育部の試みは、知の豊かさの回復と理解をしており、私としては、好ましい方向付けかと存じます。
また、「人生は、果敢に立ち向かう冒険である。そうでなければ何の意味もない。」とヘレン・ケラーは、述べております。
かくて、知性とは、既成の答えを暗記して、冒険を避けることではなく、色々な問題を解決する方法を学び、新たな問題や更に大きな問題を、解決する力量を養うことです。
なお、真の知性の本質は、失敗することに対する恐怖を克服して、果敢に学ぶ姿勢と学ぶ喜びにあります。
結びに、美貌と英知を兼ね備えた皆さんが、意欲的に学び愉しく実践することにより、社会の木鐸として、未来を切り拓くことを念じ、「L ebe so,wie du denkst 爾が考えている如く生きよ」を餞の言葉として贈り、私の拙い講演を締め括ります。
小野寺健の略歴
慶應義塾大学法学部法律学科、慶應義塾大学司法研究室を経て、曲阜師範大学日語系主任教授、淮陰師範学院日語系主任教授、南開大学日本研究院客座教授、北京大学慶應会顧問
現職
特定非営利法人日中友好市民倶楽部理事長、有限会社鴻鵠総合研究所代表取締役社長、日中友好中国大学生日本語科卒業論文コンクール審査委員長