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いけばなの実演=北京大学 |
■日本とは異なる気候を持つ中国のいけばなのあり方と現状
--文化庁の滞在型文化交流使として大学で50回以上、企業や機構を含めると120回を超える講演を行ってこられたということですが、反応はいかがでしたか?
全般的には非常に反応が面白かったです。ただ、やはり大学の講演会は、担当する教授の指導だったり、参加する学生の全体的な様子によって、その反応は全然異なりました。
一番良かった聴衆は北京大学の学生でした。興味の持ち方が鋭くて、面白い。いけばなの根本に触れてくる質問をどんどんと出してくるんです。これも、担当教授が長くいけばな、茶道、日本芸能一般について詳しく講義をしてきたという下準備があったからです。日本のいけばなについてこんなことまで知っているのかと驚くほどの知識を持っていました。日本の講演だと質問自体出てこないですから新鮮でした。
--例えば、どんな質問をよくされたのですか?
それについてまとめた資料があるんですが、例えば、中国の挿花と日本の生け花の違いだったり、仏教、儒教と古典的生け花の関係だったり、日本の流派の多さについてだったり様々です。
中国は樹木が少ない国の一つで、自然の樹木は育つまで年月がかかる。それをわずか3日間飾るために切ってしまうことは自然破壊ではないか?とか、北京のような乾燥した気候の場所では生け花はすぐに駄目になってしまうのではないか?とか大変鋭い質問もありました。
--実際、中国の伝統挿花と日本のいけばなの違いはどこにあるのでしょうか?
多少専門的なことになりますが、中国の生け花というと、冠婚葬祭の飾りも生け花です。日本で生け花というと、冠婚葬祭の飾りは通常入れません。それは、花屋の仕事だという考えがあるからです。でも、中国ではまず冠婚葬祭の飾りの花があって、その付録として、いわゆる日本の生け花のようなものがある。
日本の生け花というのは、だいたい自分のために、または人をもてなすためにあり、もっと個人的な楽しみの性質が強い。自分の気持ちを表現するとか、小説、音楽のように植物素材を使って物を表現するとか。そのような範囲の生け花というのは中国では非常に少ない点が大きな違いとしてあります。
中国の人たちが自分の気持ちを表現するような生け花に興味がないかというと、それは違って、非常に興味を示すんです。むしろそういうものにより興味を示します。だから、中国にいわゆる日本の若い人たちが興味を持っている生け花が将来中国で流行らないかというと、そんなことなくて、やっぱり大いに流行ると思います。
--学生も指摘していたように、日本とは気候の違う海外での生け花というのはどうあるべきなのでしょうか?
世界中に生け花をという理念を持つ「いけばなインターナショナル」という世界組織があるのですが、私もその思想には賛成ですが、例えば日本の生け花をもってきて、北京で通用するとか、またはモンゴルで通用するかと言えば、それは全然通用しないです。それは、日本のような湿地帯ではないので、材料が揃わないからです。
湿地帯で温帯という特殊条件によって生まれた芸事だから、それを乾燥地帯に持ってきて、日本の生け花は素晴らしいから、みんなそれを勉強しましょうというのは、正しくない。「日本の生け花」ではなくて、「中国の生け花」を発展させようというのはいいですけどね。
日本の生け花を発展させようというときに、その背景にあるのはそこの特定の流派の免状を販売しようという意味ですから。それは、日本の正しい文化を伝えることにはならないですね。
生け花はその土地、その土地で独特に生まれるべきものです。日本の生け花だって非常に風土的なものです。中国の生け花も中国の風土や人の気持ち、或いはその時代の風潮を正しく捉えて作られていくべきものだと思います。
これが、私が理念としている不易流行だと思います。日本の伝統を、生け花の古いやり方を踏まえた上で、その土地の様子とか、時代の様子を捉えて、その土地にあった生け花を作っていく、そうあるべきだと思います。
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