多様化する視聴者のニーズに応える
「中国ドキュメンタリー発展研究報告2016」によると、15年、中国のドキュメンタリー業界への投資は30億2400万元(約484億円)に達し、総収入は46億7900万元(約749億円)と、14年に比べて大幅成長となった。ドキュメンタリー専門のチャンネルや衛星チャンネルのドキュメンタリー放送時間は同年、前年比0.8%増の計約7万6400時間、そのうち、初放送の番組は同比3.9%増の計約2万4000時間だった。ドキュメンタリーのクオリティも改善しており、多様化する視聴者のニーズに対応できるようになっている。
中国伝媒大学電視学院の秦瑜明教授は、「ドラマ、バラエティ、ニュースなどは常に中国で主要な地位を争ってきた。メディアを総括する中国国家新聞出版広播電影電視(ラジオ・映画・テレビ)総局が、テレビや映画の低俗化に歯止めをかける『限娯令』を制定したり、1本のドラマ作品を二つの衛星放送局だけに放送させる『一劇両星』政策を打ち出したりしたことがかえってドキュメンタリーにとっては、発展のための理想的な空間を生み出すことになった。バラエティ番組には、視聴者を楽しませるという位置付けがあるが、視聴者には文化やアートに対するニーズもあるため、ドキュメンタリーはちょうどそのニーズに応えることができる」と、前述のドキュメンタリー番組が人気となったことは決して意外でないとの見方を示した。
特筆すべきは、ドキュメンタリーの視聴者が若年化し、若者の間で人気となっている点だ。「我在故宮修文物」は、1990年代生まれの人々が利用するユーザーのコメントが画面上に流れる動画共有サイトで人気となり、「舌で味わう中国」から生まれた「舌尖スタイル」というナレーションを真似ることも若者たちの間でブームになった。
視聴者の心をとらえるカギは「人情」
これまでにも、故宮関連のドキュメンタリーは数多く製作されてきた。なかには、巨額のコストをかけた大作もあり、撮影画像もとても美しい番組だった。しかし、それらは単に故宮を紹介する百科事典のようで、「人」に対する関心はなく、一般視聴者との交流ルートを断ってしまうような番組ばかりだった。一方で「我在故宮修文物」の蕭寒監督は取材に対して、「文化財そのものより、それを修復する職人に注目するほうが、より新鮮であり、最終的に、視聴者から大きな反響があったのも、登場した職人たちに対してだった。彼らは視聴者から大変好ましい評価を得ている」と話している。あるネットユーザーは、「修復職人たちは、文化財を修復するだけでなく、実際には、現代社会に生きている人々の浮ついた心を修復してくれている。職人たちは、毎日、1年中、こつこつと一つのことをしている。そのような精神は現代社会では非常に欠けており、尊敬に値する」と評価している。