地質・資源・環境などを中心に研究が行われる政府の重点校、中国地質大学(北京)の博士課程で、約6,500万年昔の巨大生物、恐竜を研究する日本人女性がいる。甘粛省や遼寧省といった恐竜の化石が多く出土する地域の山間部や砂漠に入っては、男性陣に混じってハンマーやたがねといった道具を用いた力作業もこなす。今回は恐竜に魅せられ、中国の大地を駆け巡る逞しい女性古生物研究者、黒須球子さんをご紹介したい。
「なんてカッコイイんだ」。両親に連れられ訪れた上野の国立科学博物館で、巨大で凶暴な姿の生き物のオブジェを生まれて初めて目の当たりにした時、恐怖ではなく、何か大きな感動が幼い黒須さんの小さな身体を満たした。「恐竜の研究者になりたい」、周りのどの女の子も描かない夢を描き、大学院では古生物学を専攻、中国やカナダなど、世界各地の発掘現場を訪れては採掘作業に汗を流し、太古の生物の化石と向き合う日々を過ごした。中でも、恐竜の化石発掘ツアーで中国内モンゴルに広がる大草原を訪れた際は、到着して車を降りたそのすぐ足元から至る所に点在する化石の数々に、「なんて凄い場所なんだ。ここなら毎日恐竜の研究だけしていられる・・・」とその規模の壮大さに感銘を受けたことを、今でも鮮明に覚えている。中国との縁を結んだのはこの時だ。後日、大学の先生に「中国から権威ある古生物学の教授が来られる」と言われ、内モンゴルでの感動が蘇ってか、即紹介をお願いした。そうして出会ったのが、現在黒須さんの指導教官を務める中国地質科学研究所の季強(ジー・チャン)研究員だ。中華竜鳥(シノサウロプテリクス)や最古の有胎盤哺乳類ジュライマイアなどを初めとする数多くの研究を手がけ、NHK「生命大躍進」の監修も務める人物で、中国きっての恐竜博士だ。