日本作家、芥川賞受賞作家・堀田善衛 (1918-98年)の1955年出版の作品「時間」は、日本の作家、そして、中国以外の作家が初めて「南京大虐殺」をテーマにして書いた長編小説だ。同小説は南京市内で生活していた陳英諦の手記の形で書かれ、陳は終始「わたし」という一人称代名詞で登場する。そして、自らも処刑されるところを偶然に助かったものの、妻と子供は日本軍によって殺されてしまったという悲劇のストーリーだ。良識ある作家の堀田氏は、多くの文献を探し、研究し、日本の戦争犯罪を告発し、最後に大虐殺の被害者の声を伝える内容をこの文学作品にまとめた。「時間」は日本で2015年に再刊行されたのに続いて、中国語版が今年7月に人民文学出版社から刊行された。環球時報が報じた。
福田康夫元首相は6月に「中国侵略日本軍南京大虐殺遭難同胞紀念館」を見学した際、「時間」に言及し、「事実は事実だ。史実を尊重して、後世に広く知ってもらうのが私たちの責任。堀田氏も同じ思いを抱いてこの作品を完成させただろう」と語った。
中国語版「時間」の翻訳者である北京外国語大学の秦剛教授は取材に対して、「南京大虐殺遭難同胞紀念館では、1955年に刊行された『時間』がすでに何年も展示されている。実のところ、そのとてもシンプルな言葉遣いによって、重い気分にさせられた。この文学作品を中国人にあまり読んでもらうことができず、単に記念館に展示しているだけでは意味がない。そのため、この本を翻訳しようと決意した。『時間』の意義は文学史に限定されず、日本の戦後の思想史上においても重要で特別な価値がある。堀田氏は中国の国際文化振興会上海資料室などで職に就いていたことがあり、上海で日本の敗戦を経験した。そして、南京に行った際に『時間』を書いて、被害者の心の傷や加害者の非人道的な暴虐を綴る決意をした」と説明した。
堀田の娘・堀田百合子さんは、中国で「時間」が出版されたことについて、「私の父の小説『時間』は1955年に新潮社から刊行された後、絶版となりました。しかし、2015年に、岩波書店から文庫版で再び出版されました。長い年月を経て、この本の中国語版がついに出版されたということは、亡くなった父にとっては非常に意外で喜ばしいことであるに違いありません。中国版の『時間』の出版に協力してくださった全ての人に心から感謝しています。そして、中国と日本の文学交流・歴史対話が一層盛んになることを心から祈っています。一人でも多くの中国の方が『時間』を読んでくだされば、幸いです」と書面で感想を寄せた。
南京大虐殺史を専門に研究する笠原十九司氏は、「『時間』がベストセラーになったり、映画化されたりすれば、日本の国民の戦争に対する意識が変わるでしょう。しかし、残念ながら日本では、『時間』はずっと無視され、忘れさられている。数十年の時を経て、15年に岩波書店から文庫版で再び出版されたことで、『時間』はやっと日本の読者の視野に再び戻ってきた」と語る。
岩波書店の編集者・奈倉龍祐さんは、「作家・辺見庸の著作『1★9★3★7』は、『時間』に対する評価が重点的に記されている。作者が一番衝撃を受けたのは、『時間』が被害者である中国人の視点から南京大虐殺における日本人のしたことを描写していることだ。それは、非常に大胆な発想で、戦争の本質を完全に見抜いている。再版された『時間』を通して、日本で南京大虐殺について真剣に考えるきっかけができることを望んでいる」と話す。奈倉さんによると、15年版の「時間」の売れ行きは良く、好評を博している。昨年末の時点で、日本では何度か重版され、発行部数は1万2000部となった。これは、日本の図書出版市場では良い数字で、購入者は主に30歳以上の男性だという。 (編集KN)
「人民網日本語版」2018年7月30日
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