尺八に今の時代の息吹を吹き込む 尺八奏者の黒田鈴尊さん (2)

人民網日本語版 2019年06月24日09:54

中国公演のポスター

「尺八の今と無限の可能性」を追求する

しかし現代社会においては、尺八のような伝統楽器は身近な存在とは言えない。そんな中、黒田さんは「奥州薩慈」のような伝統的な楽曲を演奏し続けるほかにも、自分たちの世代が新たに音楽を生み出していくことにも力を注いでいる。「もちろん古典を継承していくことは何よりも大事なことだが、誰かが今新しく曲を作らないと新しい『本曲』(尺八の伝統曲)が生まれない。同じ今の時代の空気を吸っている作曲者とコラボレーションし、相談しながら新曲を作っていくことをもう一つのライフワークと思っている」と黒田さんは語る。今回の中国公演でも、古典的な曲と新作を同時に披露した。

また、伝統楽器にとっては継承者問題も深刻だ。黒田さんも、日本ではそもそも少子高齢化の問題に直面しており、習う人が少なくなりつつあることを認めている。それだけに、演奏者としての使命感も大きい。「我々が良いものを提示できてなかったら習う人も少なくなってしまう。我々当事者がアピールして、少しでも知ってもらうように、好きになってもらえるように努力するしかない」と黒田さんは言う。

そうした努力の一環が、さまざまな音楽や楽器とのコラボレーションだ。オーケストラとの共演、西洋楽器や日本の伝統楽器とのアンサンブル結成など、意欲的な活動を続けている。今回の中国公演では、電子音楽とのコラボレーションや、中国の伝統楽器との共演も行った。これについて黒田さんは、「尺八は伝統的な楽器である前に、一つのとてもユニークで大きな魅力を持った管楽器。この楽器の音を使って、どうやって面白い音楽、自分が好きな音楽をやれるのか、というところにフォーカスしている。だから特に西洋楽器とやりたいとか、電子音楽器とやりたいという意味ではなく、こういう音楽をやるには、誰とやったらいいのか、という思考回路で動いている」と語った。黒田さんは「尺八の今と無限の可能性」を追求し続けている。

「中国の人と一緒に尺八の音楽を盛り上げていきたい」

黒田さんが中国を訪れるのは今回が4回目。中国での公演回数は7回を数える。公演では、中国の聴衆との間で通い合うものを感じたという。黒田さんは、「尺八は音が始まる前と終わってからの間もすごく大事。その部分もお客さんと一緒に味わい、共有できたという実感があった。幸せな経験だった」と中国での公演を振り返った。

黒田さんはチェロ奏者のヨーヨー・マさんから強い影響を受けており、中国出身の音楽家としての哲学を感じさせる演奏に強い憧れを抱いているという。さらに今回の中国公演では、簫や古筝、琵琶などを演奏する中国の音楽家たちとの共演を果たした。特に、琵琶との即興演奏共演は黒田さんに強い印象を残した。一つ音を出しただけでたちまち中国らしさを感じさせる琵琶の音色、奏者の情熱、音のクリアさや静かさを感じつつ、中国の楽器と日本の楽器の違いを超越して一緒に音楽を作り上げるコラボレーションが実現したという。

尺八の起源は中国で、唐代に日本に伝わった。現在、中国には簫など尺八とよく似た楽器はあるものの、尺八自体は失われ、今では日本にしか残っていない。それにもかかかわらず、5月に中国で「尺八・一声一世」というドキュメンタリー映画が公開され、静かなブームになった。これについて黒田さんは、「尺八が今、中国の人に『再発見』されたことに、大きな時間や歴史、文化の流れを感じる」と感慨を込めて語った。しかも中国では尺八を習う人が増えつつあり、「若い人が尺八に取り組みたいという感じが今の日本より中国のほうがあるような気配がする」と黒田さんは感じている。尺八は国際フェスティバルが世界各国で開催されるほど世界的な楽器になりつつあるというが、「その大きなエネルギー源を中国が今持っていると思う」と黒田さんは言う。実際、尺八の団体「鈴慕会」が上海に支部を設立しており、黒田さん自身もすでに教授活動で3回上海を訪れている。稽古は4日間にわたって行われ、参加者は10人ほど。1人毎日2時間ずつみっちり稽古するという。中国の尺八愛好家から中国に稽古場を作ってほしいという要望も出ており、黒田さんも中国での教授活動に意欲的で、「一緒に尺八の音楽を盛り上げていけたら幸せだ」と語った。(文・勝又あや子)

「人民網日本語版」2019年6月24日

最新ニュース

注目フォトニュース

コメント

| おすすめ写真

ランキング