ネット授業というパンドラの箱(前編)

人民網日本語版 2020年07月07日14:26

新型コロナウィルスの流行を契機として始まったネット授業を嚆矢として、始まった変革は、パンドラの箱を開けてしまった。大学の教師は、薄々感じてはいたが、無意識に無視していた不都合な事実が、ネット授業により明らかにされつつある。

筆者は、中国の大学で今年の2月の後半から既に3ヶ月ほどネットで授業をしている。ネットでの授業は、対面式の教室での授業と異なる大きな特徴がある。それは、学びたいという意欲のある者にとって、ネット授業は教室での授業に比べて効率が良いことである。筆者が自分の学生約60人に行ったアンケート調査では、「ネット授業の方が、教室での授業よりもメリットが大きいので、好ましい」と答えた学生が80%、「教室の授業より欠点が多いので、好ましくない」と答えた学生は4%、残りはその他であり、圧倒的大多数の学生はネット授業を肯定的に評価している。しかし、教師たちからは、否定的な反応が多い。では、欠点として挙げられている主なものを見て行こう。

①ネット環境が必要であるので、経済格差により貧しい家庭の子供が不利

②学生の把握と管理が困難なので、やる気のない者に勉強させるのが難しい

③問題の答えを次々と学生に当てて答えさせるという形式はレスポンスに難がある

④学生がどれほど理解しているか、対面式と異なり把握しにくい

⑤学校で学ぶべきは、学歴や教科学習以外に、友人・恋人・教師との出会いと交流などがあり、人間関係や集団生活での一般常識などが学べない

⑥教師が管理されることになり、授業以外の雑談や無駄な話ができない

⑦ネット授業用の動画を作成したり、教材を作ったりする授業準備が大変

以上が、欠点であるが、それぞれ検討してみよう。

①→数年内に、全員がスマホやパソコンを持ち、高速ネット接続が安価に当たり前の時代になる。実は、地方の貧しい家庭の子供こそ最大の受益者で、今までは受けられなかった都会の一流の教師の授業を無料もしくは格安で受けられるようになるので、都市と農村の格差や貧富の差、教師のレベルの差をも縮められる。例えば、筆者もネット授業で日本人教師のいない武漢の大学の学生にボランティアで授業をしている。北京や上海は外国人教師や優れた教育環境があるが、地方の大学では外教もほとんどいなければ、日本人も全く住んでいない環境で、既存の教育形態では、大きな格差が存在している。

②→小中学校の義務教育ではその通りだが、高等教育の授業では、自分が学びたい専門を学びに来ているのであるから、学びたくない学生に強制的に学ばせる必要はない。専門的な技術を身に付けたり、好きなことをしたりする方が良い。ネット授業は勉強したい意欲と自分で勉強する能力の高い学生には極めてプラスだが、勉強する意欲と自分で勉強する能力の低い学生にとっては極めてマイナスに働く。その証左に、日本では東京大学や早稲田大学などのトップスクールはネット授業に真っ先に対応できているのに対し、コロナ流行がなくても淘汰されると予測されていた地方や私立の下位大学ほどネット授業に対応できず、結果的に、ネット授業に切り替えるチャンスを逃している。大学の資金力・インフラの厚さに加え、教員や学生の質によって、上位大学と下位大学の差が拡大しかねない状況である。

③→パワポを表示できるのみならず、今まで黒板に書いていた板書もパソコン上で即座に書いたり、必要な箇所をその場で臨機応変に学生に送ったりすることもできる。必要ならば、写真を撮って送ったり、資料や動画なども即座に共有したりもできる。学生は、分からないことがあったらインターネットで即座に検索して知ることもできる。動画や音声を送ることができるのだから、学生たちはわからなければ何度でも見ることもできるし、わかる学生はどんどんと先に進むこともできる。

④→小テスト等でマスターできているかを把握すれば事足りる。アンケート機能を通じてどこがわからないのかどれだけ理解しているのかも明確に把握できる。現在は出席していること、真面目に授業を受けていることが非常に重視されているが、どこまで理解できているかが評価の重点になる。小まめにチェックできるし、一人一人の記録も取れるので、却って把握しやすい。ま学生も、教室での授業では周りの目を気にして手を挙げられない学生が殆どであるが、ネットで教師に直接聞けるようになってからは、ずっと容易に分からないことを聞いてくるようになった。個人個人に対応した指導がやりやすくなった。

⑤→高等教育の専門の授業は、マナー教育をするところではない。現在では出会いですら、ネットになって来ている。その方が、大きな母数から趣味や考え方の合う人を見付けられるので、より幸せに個性を伸ばせる面もある。100%ネット授業にするということではなく、講義そのものをネット授業にすることにより、教師や学生の余力を他の活動に投入しやすくなる。つまり、ネットによって3次元の交流も促進されるようにしていける。また、ネット授業なら、不登校の学生でも授業について行けるようになるのでコミュニケーション弱者を助けることにもなる。

⑥→授業や教育に全く関係のないただの雑談は控えるべきである。もししたければ、個別にききたい人達だけを集めてすればいい。聞きたくない人もいる。授業時間で話すべきことを話し終えて場を繋ぐために話すくらいなら、例えば、90分の授業を50分程度で終えられるはずだ。そうすれば、残りの時間でインタラクティブな授業をしたり、関連する内容を教えたりしても良いのではないか。

⑦→確かにコンテンツ作成は負担が相当大きいが、ネット授業用の教材の多くは、使い捨てでなく、一度作ると繰り返し使えるので、空いた時間を他の活動や、個別の指導などに充てたり、補助教材を作成したりすることができるようになる。また、自分の得意な教科に注力し、いいコンテンツは教師同士でシェアし合えば、授業準備も軽減し、学生にとってもより分かりやすくなる。

以上から、ネット授業には欠点を補って余りある可能性と長所があることが分かる。総じて、ネット授業では、学生が自分でできる事は学生に任せることで、今まで授業で学生と一緒に教科書を読んだり、問題の答え合わせをしていたりという時間はぐっと圧縮できる。ビデオに録画すれば、更に効率的な授業運営が可能となるであろう。授業では、理解度の確認と、学生が自分で分からなかったところを解説したり、+αの知識や勉強の仕方を教えたり、議論して導く形になっていくであろう。それは、教育の本来あるべき姿に立ち返ることだとも言える。しかし、教科書以上の知識を教えたり、学生からの想定外の質問に対応したりするのは、教師に総合的な力が求められる。ネット授業の成否は教師にかかっているのである。(文・北京第二外国語大学副教授 津田量)

>>>ネット授業というパンドラの箱(後編)

「人民網日本語版」2020年7月7日 

最新ニュース

注目フォトニュース

コメント

| おすすめ写真

ランキング