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【独占取材】莫言小説の翻訳者・吉田富夫氏(3)

 「豊乳肥臀」の母親像は自分の母親と重なる

 人民網:どのようなきっかけで莫言氏の翻訳を手がけることになったのか?

 少しこみ入った話になるが、まず中国は毛沢東時代に入り、後に文化大革命が始まって、その後改革開放が開始された。日本の若い中国文学研究者としてそれぞれの時代から大なり小なりの影響を受けてきた。1960年代から中国文学を学び始めるが、当時は文化大革命に非常に興味を抱いていたが、後に改革開放が始まり、いわゆる新世紀文学が登場し、時代の流れと共に、興味の対象も変化していった。80年代中ごろに50年代生まれの若い作家がたくさん現れ、この中に莫言氏や張抗抗氏、賈平凹氏などの多くの作家が含まていた。私はこれらの若手の作家たちに興味を持ち、次々と小説を読んだ。その中に莫言氏の初期作品「赤い高粱」や出世作となった「透明なニンジン」もあり、興味を持った。しかし、当時はまだ直接彼らと会う機会はなかった。後に偶然だが、卒業後、日本の出版社に勤めていた京都大学の後輩が莫言氏の「豊乳肥臀」を推薦してくれ、これを日本語に翻訳する気はないかと持ちかけてきた。もちろん私は興味があったが、当時は莫言氏と知り合うすべがなかった。幸いなことに、神戸に住む作家・毛丹青氏と知り合い、毛氏が莫言氏を紹介してくれて、北京で実際に会う機会を持つことができた。そこから莫言氏の作品を翻訳するようになった。

 人民網:実際に会ってみて、莫言氏をどのような人物だと思ったか?

 これは非常に不思議なめぐり合わせがある。莫言氏はよく自分のことを農民だと言うが、私も自分のことを農民だと言っており、二人とも同じ農民の出だ。私は日本の農村で生まれ育ち、小さいころから農作業を手伝ってきたし、父親は鉄を打っていた。莫言氏も同じ様な人たちに囲まれていた。小説「豊乳肥臀」の中には鉄を打つ場面も出てくる。この小説の中の母親像は私の母親とまったく重なる。これは本当の話で、作り話ではない。「豊乳肥臀」の翻訳に没頭し始めると、私は完全に莫言氏が描く世界と一体化していた。1997年3月に初めて莫言氏に会ってから今まで14年がたったが接すれば接するほど親近感が沸いてくるのは、恐らく私たちが共に農民出身だからだと思う。このような状況は日本の学術界では恐らくまれであり、偶然の一致だといえる。

 人民網:二人とも同じ農村出身ではあるが、年齢は20歳ほど差がある。この20年の差は農村ではあまり大きな違いとして表れないのか?

 確かに年齢的には差があるが、農村の環境や小さいころの体験には多くの共通点がある。単に現在の状況と違うだけ。現在、日本の農村は都市化され、中国の農村もまた都市化されて、我々の小さいころの農村の趣は共に無くなってしまった。多くの物や光景が姿を消していった。私の実家もそうだ。父親が亡くなって、かなり昔にもう鉄を打つこともなくなった。莫言氏の高密県も同様だ。莫言氏の小説の中の高密県の雰囲気は私の広島の実家に非常に似ている。だが、高密県に実際に行ってみると、私の実家とはまるで違っていた。私の実家は小川の傍らにある小さな村の中にあるが、高密県は見渡す限りの平原で、似ているところはまったくない。完全に異なる世界だ。しかし、小説に描かれている世界はやはりすごく似ている。これは恐らく都市で育った人には理解できない情緒だと思う。(編集MZ)

 「人民網日本語版」2012年11月27日

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