円安の歩みはペースダウンするか? (2)
第三に、ますますグローバル化する日本企業は整った価格メカニズムを備えており、レートの変動で大きな調整を行うことはないとみられる。低金利の環境では、世界のレートが変幻自在で予測がつかないからだ。特に日本の大企業は、流れに乗ってむやみに価格調整を行うことは根本的に不可能だ。
レートの変化をよりどころにして、分散型の、各地域の市場の特徴に合わせた価格戦略を制定するということは、大変よいことに聞こえるが、実際の操作は極めて難しい。企業は短期的な利益のためにブランドを犠牲にしてはならない。価格は確かにブランド戦略の最も重要な一部分だ。言い換えれば、日本企業は価格調整を急速に進め、価格調整と急速な円安との歩調を合わせることはしないとみられる。
通貨安と輸出製品の競争力とが釣り合わない事態は珍しいことではない。ドイツを例に取れば、欧州で主権債務危機が起こるとユーロは大幅に値下がりした。だが値下がりでドイツの自動車販売にそれほど大きなダメージはなかった。米国市場を例に取れば、ドイツの自動車メーカーが製品の価格と販売戦略を制定する際に、参照するのは競合する米国の同業者であり、ユーロの対ドルレートではない。つまりユーロとドルのレートが大幅に変動しても、ドイツの乗用車の米国市場での価格は引き続き安定を保つということだ。
英国をみると、統計の数字からわかることは、2007年に通貨切り下げ戦略をスタートして以来、英ポンドの値下がり幅は24%に達したが、それほど効果は上がっていないということだ。英国に輸入される製品の価格を引き上げたと同時に、英国から輸出される製品の価格も上昇したからだ。
翻って日本をながめてみる。現在、日本の輸出企業の約40%が円建てで製品価格を設定しており、価格体系は円安前と根本的に変わっていない。理屈からいえば、円安になると日本の製品のメーカーは価格を適度に値引きし、売上を増やすために値引きに力を入れることが可能だ。だが先に挙げた英国のケースのように、日本の輸出企業は価格を維持することを選択し、安定によって安定をはかり、不確定要因のある環境の中で市場シェアを維持する道を選んだ。言い換えれば、日本の輸出企業は円安で直接的な利益を得たが、価格体系を維持するために知恵を絞っており、価格を下げて販売を活性化しようとはしていないということだ。