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AI時代の外国語教育とその課題〜卒業論文作成を中心として~ (4)

人民網日本語版 2018年05月03日10:11

それと同時に、社会が大学卒業生に対して求めている能力も変容してきている。たった十数年以前までは外国語(日本語)さえできれば、引く手数多で、高給を得られる職につけたが、現在では既に、一つの外国語だけでは足りず、複合的な専門や能力を持つ人材や、即戦力として活躍できる人材が求められるようになってきている。そこで、ますます多くの大学も主専攻副専攻の制度やダブルディグリーの制度を設けたり、企業などでの実習を課したりするようになってきている。そのため、学術研究を第一義とする一流大学以外では、学術・学問を第一としないようになってきている。

6.今後の卒業論文

卒業論文とは、大学4年間で学んだことの集大成であり、医学部なら医師国家試験がそれにあたるように卒業論文は大学教育に必要不可欠なものではない。外国語教育ならば、4年間の外国語学習の成果を用いて、まとまった量の翻訳や通訳の実践、外国へ行って実際にその国の人と交流したり、知見を広げたりすることも、十分に学んだことの集大成である。

日本では、2020年から文部科学省が改定作業を進めている知識偏重から思考力や判断力を重視する新学習指導要領が全面実施される。次世代の教育では人工知能(AI)が学校教育にも取り入れられるようになり、知識を習得する学習形態から、AIに負けない、人間にしかできない感性や個性、思考力や判断力をこれまで以上に身につけていくことが大切になっていく。教師が一方的に教えることから、学生が主体的に学び、問題を解決することへ教育の重点がシフトし、AIに負けない思考力のある人間を育てていくことがこれまで以上に強く求められていくことになる。文部科学省は「教育課程編成・実施の方針について」にて、大学に期待される取組の具体的な改善方策として、「各大学の実情に応じ,在学中の学習成果を証明する機会を設け,その集大成を評価する取組を進める。 例えば,卒業論文やゼミ論文などの工夫改善や新規導入を実施したり,学部・学科別の,あるいは全学的な卒業認定試験を実施したりすることを検討,研究する。」としている。

実際、既に卒業論文・制作があるのは人文社会系の学部で73.1%、社会科学系の学部で32.7%に過ぎない。多様な特徴を持つカリキュラム編成を反映して特に文系では学際化が進み、卒業要件として卒業論文を課す大学は減少し、卒論が無くなったり、選択制で書かなくても卒業できるようになったりしてきている。中国の外国語教育、特に日本語教育においても、修剛(2018)が日語専業の国家標準作成し「作品を翻訳したり、実践したことの報告書であったり、多様な形式であっていい」と述べている。

集大成であるから、なにも卒業論文という形式に拘る必然性はない。また、卒業論文の目的は日本語の能力を高めるためではないので、論理的に「中国語または日本語による執筆」となるのであるが、これは同時に、レベルの乖離により、日本語で論文を書けない学生、日本語での論文を指導できない教員等レベルの大学が少なからず存在することへの現実的対応策ともなっている。

このように、多様な人材・複合的な人材を求める社会の要求は、大学の大衆化も相俟って学生のレベルやカリキュラムに応じてそれぞれの大学がそれぞれの形での大学4年間の集大成の形を模索していく方向にある。そこで、①卒業論文を卒業要件とする大学の割合は減少していくと思われる。また、AIの技術的な進展は、今まで論文を作成する際に多大な労力を払ってきた、資料の収集やその資料が外国語である時はその翻訳、外国語で書く場合は高い語学力といった方面への労力の逓減をもたらしてきている。ここから、初心に帰ってもう一度卒業論文の意義を問い直すことが必要になってくる。その帰結として、卒業論文は、②外国語専攻と雖も、AIの進化に伴って卒業論文は知識や語学力を示すものではなくなっていき、語学としての比重は下がっていく。そして、AIの進化に伴って今まで多大な力を割かねばならなかった作業に対する負担が下がることによって、③どんな目的・問題意識を持っての主体的な知的作業であるかが重視されるようになっていく。つまり、何をどう論じ、どのような結論を得たかというより本来的な論文としての比重が上がっていく。AI、卒業論文はITやAIを利用してその答えを探し、得たデータや資料を用いて、筋道立てて自説やある物事を論じるという知的作業により焦点が加わって行くものと思われる。

ここから、AI時代の大学での外国語教育における卒業論文は、学術論文以外に、翻訳・通訳や交流活動などの実践報告、文学作品の翻訳や、言語以外の他分野にまたがる学際的学びが増えていくことから、起業案作成など、多元化して行くと考えられる。

現在行われている、卒業論文コンクールは、日本語で書かれた学術論文に限定しているが、学術論文以外の形式の部門にも対象を広げることも一つの方向性になるかもしれない。また、学術論文としての卒業論文は、語学の評価比率は下がり、新しく何を言ったかという創造に対する比重が上がっていくものと考えられる。

参考文献

小野寺健・王健宜・邱鳴等(2012)『日語専業卒業論文写作指導』、外語教学与研究出版社。

王健宜(2007)「中国の大学の日本語専攻における問題――卒業論文の指導――」『中国21』、56、58ページ。

宿久高(2004)『第四回日中友好中国大学生日本語科卒業論文コンクール記念文集』南開大学日本語学部、95ページ。

高文漢(2004)『第四回日中友好中国大学生日本語科卒業論文コンクール記念文集』南開大学日本語学部、94ページ。

王健宜(2004)『第四回日中友好中国大学生日本語科卒業論文コンクール記念文集』南開大学日本語学部、92ページ。

小野寺健(2004)『第四回日中友好中国大学生日本語科卒業論文コンクール記念文集』南開大学日本語学部、1ページ。

大島堅一(2015)「卒業論文の書き方International Relations Self-Study Navigator」執筆日(更新日:2015 年11 月19 日)

楊秀娥(2013).大学日本語専攻における卒業論文作成への指導教員の意味付け――中国のある大学の日本語教師へのインタビュー調査から『日本学刊(香港日本語教育研究会)』16,262-274.

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