考察してすぐにわかるのは、現在の中国社会はなお積極性に富んでいること、努力して運命を変えようとする若者が中心にいることだ。これは中国が今も上昇期にあるためで、日本のようにバブル経済が崩壊し、階層が固定化し、人々が元気を失い意欲が低下するという段階には到達していないからだ。また中国社会は日本よりも貧富の差が大きく、社会の発展状況には開きがあり、このことが若者の向上心を刺激する。日本社会にはみな平等で法律の支配が行き渡るからこそ、若者の「人より抜きんでてやろう」とする野心がくじかれるという側面がある。
低欲望社会が形作られるには2つの条件を満たすことが必要だ。1つは頑張れば運命は変えられるという希望をもてないこと。もう1つは頑張らなくても基本的な生活は保障され、凍えたり飢えたりする心配はなく、精神的に大きく追い詰められていないことだ。高欲望社会にも2つの条件がある。1つは頑張れば報われて、運命を変えるチャンスがあること。もう1つは頑張らないと物質的にも精神的にもひどく不利な環境に置かれることだ。
こうした条件を見比べると、中国社会は全体として短期間で低欲望社会に陥る可能性はないと確信できる。ただ低欲望社会の症状は中国と完全に無関係とはいえない。じっくり眺めると、低欲望社会の兆しが身近なところに少しずつ現れている。その原因の1つとして住宅が挙げられる。競争力が平均レベルで、実家からの支援が受けられない若者が、自分の力だけで家を買うことはまず無理だ。また若者の中には、身近な親戚や友人が思いローンを背負って生活苦にあえぐ様子を見て、価値観が潜在意識レベルで変化した人もいる。どんなに努力しても身を立て名を立てるという伝統的な理想がかなわないなら、いっそのこと「仏系(仏のように物事に拘泥しない人々を指す)」になって、上の世代とは異なる道を歩み、何にも束縛されないで暮らしを楽しもうと考える。恋愛、結婚、子どもは物質的な問題と強く結びついていて、実現が難しいので、恋愛も結婚もしないし子どもももたない。こうした現象は目に見えるだけでなく、一連のデータにも裏付けられている。
日本経済は燃えさかる炎からバブル崩壊へ、盛んな欲望から低欲望へと移り変わった。こうした転換は突然やって来て、転換の速さに人々は首をかしげるが、内在する論理は明快だ。バブル時代に出現した問題がバブル崩壊後に逆映しになってすぐに解決されるということはなく、階層が固定化し全体的な豊かさが基本的に達成された状況の中、何かを追い求める強い欲望をもたないのは、特に子どもをもちたいと思わないのは、若者それぞれが選んだ理性的な選択肢だといえる。
中国の出生率の低下ペースの速さは大きく重視しなければならない。そこに低欲望の要素がないかどうか、じっくり検討する必要がある。低欲望社会の出現を回避したいなら、重要なポイントは、頑張れば未来は開けると若者に思わせることだ。よって不動産価格の問題でも、年金・介護制度、財政問題、さらには階層の流動の問題でも、将来性をみすえることが必要だ。少なくとも子や孫の世代への影響は考える必要がある。これが日本の経験から導き出される最も重要な警告だ。(編集KS)
「人民網日本語版」2019年1月21日
このウェブサイトの著作権は人民日報社にあります。
掲載された記事、写真の無断転載を禁じます。
Tel:日本(03)3449-8257
Mail:japan@people.cn