43作品を翻訳 村上春樹の文章は自分に合っていたから
林氏が数えてみたところ、「ノルウェイの森」翻訳から最近の「みみずくは黄昏に飛びたつ」まで含めると、林氏は長編小説、中編小説、短編小説、インタビュー集などを含め43冊の村上春樹作品を翻訳してきた。
林氏は村上春樹が中国国内で次第に流行していく全過程も見つめてきた。2001年、上海訳文出版社は村上春樹の17作品の版権を一括で購入したが、その翻訳をすべて林氏に依頼した。これらの作品は出版後非常に人気となり、清新で優美な文体の「林訳」版は読者の間での影響力を確立した。
「翻訳とはすなわち他人の魂の情報を監視し盗み取る作業だ」。林氏は村上春樹の表現習慣と叙述の口調をよく理解しており、翻訳はスムーズだ。そのため冗談めかして、林氏を「村上春樹の裏方を務める男」だと言う人もいる。
こうしたからかいの言葉を林氏はほぼ一笑に付し、「翻訳者の役割について言えば、確かに裏方だ。クレジット形式で言えば、作者の後ろで、しかも字のサイズも小さい。訳者の立場としては何も意見はない」と語った。
彼は自分と村上春樹は「似た者同士が意気投合」したようなものだと形容し、「村上春樹の文章は私の気性に合っていた。文学翻訳は語彙や文法、文体の橋渡しをするだけでなく、審美体験や心のあり方の橋渡しをすることでもある。そうして初めて作品の精髄を伝えることができる」と語った。
林氏は作家の全体的なスタイルを再現することも重視している。「ある語句を誤訳しても本質には影響しないが、全体のスタイル、すなわち文章スタイルを誤訳したら、救いようのない事態になる。文学翻訳の価値は、極端に言うと『正しいか正しくないか』よりも、『らしいからしくないか』によって決まる。だから最後に問いかける内容は、『村上らしく訳せているか?』とか『夏目漱石らしいか?』になるはずだ。」
しかし、30年間で林氏は村上春樹に2回しか会っていない。1回目は2003年、2回目は08年だ。比較すると、最初に会った時のほうがより収穫が大きかったという。彼らは多くの翻訳や創作に関する話題について話し、さらに念願をかなえて記念撮影もした。
「私の職業は大学の教員で、授業のかたわら翻訳をしている。創作となるとさらに専門外だ」。言葉ではこう言っているものの、林氏はやはり自分の目標を設定しており、「自分の限界を打ち破りたい。そこそこ悪くない小説が書けたらと思っている」と語った。(編集AK)
「人民網日本語版」2019年7月26日