丸顔で、身なりはシンプル、話す時によく笑うというのが、林少華氏に会った時に多くの人が感じる第一印象だろう。いかにも教師という学問的な上品さを漂わせてはいるが、それよりも近所に住んでいる温和でやさしいおじさんといった雰囲気のほうがよりピッタリくるかもしれない。中国新聞網が伝えた。
林氏は大学教授であり、国内で有名な翻訳家でもある。これまでに夏目漱石や川端康成などの作品を翻訳しており、その影響力は小さくない。また林氏は村上春樹作品の主な翻訳者でもある。30年間で、今も売れ続けている「ノルウェイの森」を含め、村上春樹の著作43作品を翻訳した。冗談めかして、林氏を「村上春樹の裏方を務める男」と呼ぶ人もいるほどだ。
30年前に「ノルウェイの森」を翻訳
一連の村上作品のうち、林氏が最初に翻訳したのは「ノルウェイの森」だ。
この作品を訳したのはちょうど1989年の冬休みで、そのころ林氏は◆南大学(◆は既の下に旦)の教員をしていた。広州の冬は比較的寒く、林氏は大学の教員宿舍5階にある小さな部屋に閉じこもり、古びたVネックのセーターを着て、少しずつ原稿用紙のマス目を埋めていった。
「窓の外で『ノルウェイの森』の主人公であるミドリのようにしゃべったり笑ったりする娘に目をやったり、凍えた指を揉んだりしながら訳した。翻訳環境的には、村上が『ノルウェイの森』を書いた時に泊まっていた安宿と少し似ていた」と林氏は語る。ただ、林氏は村上のようにジャズが好きだったわけではなく、彼のBGMになったのは「高山流水」や「漁舟唱晩」、「平沙落雁」といった中国の古琴の楽曲だった。
同書は出版後たちまちベストセラーとなり、作中の多くのフレーズは読者から名言と称えられた。当時、「ノルウェイの森」を手に持っていることは、間違いなく「文学青年」や「プチブル」の象徴だった。
「30年の間に、無数の読者が訳者である私に手紙を送ってきたが、3通のうち2通は『ノルウェイの森』について書かれていた。物語のストーリーに引き込まれたという人もいれば、主人公の個性に心を動かされたという人もいた」と林氏は感慨深げに語った。