劉慈欣の短編小説「黄金原野」がネビュラ賞ノミネート  SF文学人気の秘密は?

人民網日本語版 2019年05月09日09:04

「第10回世界中国語SFネビュラ賞」のノミネーションがこのほど発表され、劉慈欣の「黄金原野」がその名を連ねた。テーマは、劉慈欣が得意とする「宇宙」で、映画化され大ヒットした「流浪地球」同様、「故郷」に対する強い思いが表現されている。中国新聞網が報じた。

宇宙船に乗った女性が19年間宇宙をさまよう

「黄金原野」の時間設定は未来の2043年から2062年。宇宙船が宇宙で故障し、主人公のアイリスが一人で宇宙船「黄金原野号」に乗って宇宙を19年間さまよい、世界が協力して彼女を救出する物語だ。

事の発端となったのは、アイリスの父親ミラーの会社「生命遠景」が研究開発した薬「冬神」で、それを飲むと「冬眠」状態に入ることができ、宇宙での移動に使われる計画だった。宇宙飛行士が「冬眠」することで、宇宙船に積む食料などをかなり減らすことができるというわけだ。

ただ、この薬はあまり使い道がなかった。同小説には、「20世紀半ばに人類が月面着陸に成功して以降、有人宇宙飛行船が到達している地球から最も離れた場所は、人類が自動車で3-4時間かけていくことができる程度の距離に過ぎない」としている。そのため、ミラーは宇宙分野での展開に時間と力を注ぎ、有人宇宙飛行船で火星に行く計画を立てていたが、交通事故で亡くなってしまう。

父親の夢を叶えようと、アイリスは「冬神」を持って「黄金原野号」に乗りこみ、宇宙へ飛び立ったものの、地球に戻れなくなってしまう。地球上の人々は、バーチャル・リアリティ(VR)技術を駆使して、アイリスの宇宙における動きの一つ一つを把握し、救出するために、宇宙飛行技術のレベルアップに取り組む。

しかし、やっとのことで「黄金原野号」を見つけて近づいたものの、宇宙船からの生命反応はとっくの昔に失われていた。アイリスは何年も前に録音した音声で、「本当は『冬神』なんて存在しない。宇宙飛行船の故障というのも計画のうち」と告げる。ある意味、彼女はこうした方法を通じて、宇宙飛行技術の進歩を促したのだ。

この小説を書いた理由について、劉慈欣は、「宇宙事業の発展の現状を知ってもらいたかったから。1960年代以降、宇宙技術の根本的なブレイクスルーは実現できていない。IT技術の発展やその影響と比べると、雲泥の差だ」と説明する。

SF作品集「十二個明天」の企画編集を担当する安■氏(■は火へんに華)によると、「長編小説『三体』以降、劉慈欣はほとんど新作を出版していない。『黄金原野』は、8年ぶりのハードSF作品で、『十二個明天』にも収録された」という。

「黄金原野」は、劉慈欣が好きな宇宙をテーマにし、人類が地球から出て、宇宙を旅する期待と渇望が表現されていることが分かる。

安氏は、「宇宙の遥かかなたにいても、アイリスが夢見る場所は依然として故郷である地球。しかしアイリスが目にすることができるのは、モニターに映る100億人が生活する地球の姿だけ。これが、『黄金原野』で最もユニークなポイントと言えるだろう。また劉慈欣は、人工知能や宇宙探査などのテクノロジーの発展に対する自分の思いを作品に盛り込んでいる」と説明する。

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