中国民間対日賠償請求聯合会の文物返還部の王錦思部長や張星水弁護士ら一行が9日午後、北京市高級人民法院(高裁)で、日本政府に対して、中国が海外に流失している随一の国宝で、現在、日本の皇居に保管されている「中華唐鴻臚井刻石(鴻臚井の碑)」を中国に返還するほか、謝罪と賠償を行うよう求める訴えを起こした。同聯合会は東京地方裁判所と国際司法裁判所(ICJ)にも起訴状を郵送している。中国新聞網が報じた。
唐の玄宗皇帝は713年、鴻臚卿の崔訢を遼東に派遣し、靺鞨族の首領・大祚栄を渤海郡王に冊封した。崔訢はこれを記念するために現在の遼寧省大連市旅順に石碑を建てた。この石碑が「鴻臚井の碑」だ。同石碑は、中国の東北地方の歴史や民族史、文化史において、非常に価値の高い重要文化財だ。1908年4月30日、旧日本海軍が同石碑を旅順から皇居に運び、戦利品として明治天皇に献上し、今でも皇居に保管されている。
「鴻臚井の碑」建立1300周年を祝う2014年8月、同聯合会は、日本の木寺昌人駐中国大使を通して、日本の政府や皇室に対し、石碑の返還を求める書簡を送った。中国の民間組織が日本の皇室に対して、文化財の返還を求めるのはこれが初めて。その後、14年12月23日、王部長らは日本を訪問し、石碑の返還を求めた。
それでも、「今に至るまで、私達は何の回答も得ていない。だから、今回、北京や東京、ICJで訴訟を起こすことにした」と王部長。
張弁護士は、「戦争時に文化財を略奪するのは、人類社会の正義の原則や人類文明の普遍的価値に背く犯罪行為。原告は、自国民を代表して、戦争時などに海外に流出してしまった文化遺産や文化財の返還を求める責任と権利がある。被告には、国際法や国際慣例に基づき、それを返還する義務がある」と訴える。
張弁護士は、1899年の第1回万国平和会議で締結された「ハーグ陸戦条約」や1907年の第2回万国平和会議で改定された同条約の第56条では、戦争中に「建設物、歴史上の記念建造物、技芸及び学術上の製作品を故意に押収、破壊または毀損することはすべて禁止され、かつ訴追されるべきものとする」とされていることに言及し、「この法律は日本に対しても、中国に対しても拘束力を持つ。文化財を奪われた国がその返還を求めるための強力な根拠」と指摘している。
同聯合会の童增会長は、「昨年に返還を求めて以降、中国の民間が次々に立ち上がったが、起訴して権利を行使することまではしていなかった。しかし、日本側が中国の民間を全く相手にせず、その主張を無視しているため、起訴に踏み切った」と背景を語った。