私は北京で13年生活している日本人だが、中国で最も大切な思い出といえば成都にある。(文:吉田陽介。瞭望東方週刊掲載)
それは2003年、私が中国に留学して早3年目の時だった。当時、中日関係は小泉首相の靖国参拝の影響で急に冷え込んでいた。
私が最も頻繁に中国の学生に受けた質問はほぼ戦争と歴史についてのもので、「日本の首相はなぜ靖国神社を参拝しないといけないのか?」、「あなたは先の戦争に対してどんな考えを持っているか?」、「日本が正しいのか、中国が正しいのか?」など少し「きな臭さ」を帯びた質問だった。
2003年1月、中国の春節(旧正月)を体験するため、私は中国人の友人の故郷である成都に行った。友人の友人は抗日戦争の時に日本軍と戦った退役軍人の王さんといい、彼は私に会いたがっていた。
王さんに会う前、私は少し緊張していた。万が一、歴史と戦争問題に話が及んだらどう答えたらいいのか?
王さんは一人で生活しており、狭い家の壁にはたくさんの書画が掛けられていた。王さんを見つけた私は少し緊張しながら「こんにちは」と挨拶をし、王さんは自分から手を伸ばし私の手を握り「いらっしゃい」と言った。
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