▽製品:有効供給の深刻な不足
国内の多くの業界は、製造能力は十分だが、革新意識に欠けているという現状にある。中国人の海外での大量購入は「グローバル市場を利用した需要の満足」とも言える。
「消費者が海外で買いに走っている商品の品質が国内の商品に比べて高いのは確かだ」。商務部(省)研究院消費・流通研究所の関利欣・副所長は、消費の海外流失の分析にあたっては、中国の消費市場の供給・需要の両側における新たな特徴を考えなければならないと指摘する。
需要側においては、規模が成長すると同時に、構造の改善が急速に進んでいる。「あるかないか」で満足していた庶民は、「品質が良いか」「流行に合っているか」にこだわり始めている。「量」の満足から「質」の追求への転換、有形の消費からサービスの消費への転換、一斉に押し寄せる模倣型の消費から人それぞれの多様な消費への転換が起こりつつある。
だが供給側では、需要側のこの変化に応じた変化が起きていない。市場供給の量は多いが、多くの業界では、有効供給が深刻に不足している。世界経済がしっかりと融合した今日、国内で満足を得られない新たな消費需要が海外市場へと流れていくのは自然なことと言える。「海外での『爆買い』は、国内の消費者がグローバル市場を利用して自身の需要を満たしているものと見ることができる」と中国国際貿易促進委員会研究院の趙萍研究員は指摘する。
山東省済南市のある事業機関に勤める王偉さんは昨年、内蒙古(モンゴル)自治区に観光に出かけた。ある観光地で100元の帽子を買った。店の人は、現地の人が手作業で編んだもので、記念にぴったりだと説明した。だが1カ月後に湖南省に観光に訪れた王さんは、またしても同じ帽子を発見し、あっけに取られた。帽子は、産地表示が「内蒙古」から「湖南」に変わっていただけだった。
「笑い話のようだが、中国の観光地の記念品市場の同質化がいかに進んでいるかがわかる」。関利欣氏の見るところ、観光記念品は本来、観光消費の大きな支えともなり得る。だが国内の有名な観光地の売店に並べられた記念品は、壁飾りやスカーフ、扇子、ブレスレットなどどこにでもあるような工芸品ばかりで、印刷されている観光地の図案が違うにすぎない。このような記念品で財布を開ける気になる消費者はなかなかいない。一方、海外の観光地の記念品には、ユニークなものや、より鑑賞に耐えるものが少なくない。