人文社会論叢 日中友好中国大学生日本語科卒業論文コンクール特集号

人民網日本語版 2020年06月17日15:39

人文社会論叢 日中友好中国大学生日本語科卒業論文コンクール特集号

巻頭言

幕末の志士吉田松陰は、「学問とは、書物に書かれた『過去』を学ぶことではない。『現実』と向き合い、世界の時局を知ることに、他ならない」と話しております。また、AI 時代の学びは、急激な変動とスピードが求められ、生涯学習が常態になる中での大学教育の役割は、学びの方法論を確立することに尽きると思います。そして、大学での学問とは、知のフロンティアへの橋頭堡であり、大学での教育とは、多くの人材を、フロンティアに導く為の訓練であり、大学で学ぶべきは、推論と議論の方法であり、実践であります。(作者は特定非営利活動法人日中友好市民倶楽部理事長・小野寺健)

ところで、戸惑い焦りながらも、学問と言う名の「豊穣な海」に漂う学徒に、一筋の光を頼りに荒海に漕ぎ出す勇気を与え、研ぎ澄ました精神を鍛えて、学びの愉しさに導くことが、本編集の願いでもあります。小林一茶は、「けふからは 日本の雁ぞ 楽に寝よ」と謳っており、晩秋になると、遥々海を越えて、北方から日本に渡って来る雁は、日々の勉学と競争に明け暮れて、羽を休めたい学生にも似ており、暖かい日本語教育界の中で、知性と優しさを蓄え、世界の大空へと大きく羽ばたいて欲しいものです。

なお、学問の方法としては、全体を扱うことは出来ないので、断片を切り取って分析をしますが、その切り取り方が上手であれば、核心に迫り得るので、その切り取り方がポイントであり、これを別の言葉で言えば、「テーマ選定の巧拙」です。したがって、論文作成とは、切片を切り取り、全体状況を推測する作業ですが、結果は、切り取った切片の部位に依ります。そこで、核心に迫り得る切片の切り取り方が、論文の成否を左右致します。そして、核心に迫り得れば、普遍的価値を持つことになり、此れこそが学問の醍醐味であります。ちなみに、細部から全体を推論するのが、現代の学問手法ですが、細分化されて専門領域が狭まった結果、知への懐疑や大学教育の限界が、指摘され始めております。それは、そもそも「知」とは、古代ギリシャの時代から、人生を豊かにするものであり、知が専門化や細分化されることにより、知が本来持つ豊かさが、失われてしまうからです。

そこで、直ぐ役立つことは、直ぐに役立たなくなりますので、哲学・文学・歴史等人類の叡智に触れて、豊かな感性を育み、人間性を高めるとが、なによりも大切です。また、「人生は、果敢に立ち向かう冒険である。そうでなければ何の意味もない」とヘレン・ケラーは、述べております。かくて、知性とは、既成の答えを暗記して、冒険を避けることではなく、色々な問題を解決する方法を学び、新たな問題や更に大きな問題を、解決する力量を養うことです。なお、真の知性の本質は、失敗することに対する恐怖を克服して、果敢に学ぶ姿勢と学ぶ喜びにあります。

結びに、意欲的に学び愉しく実践することにより、日本語学習者の皆さんが、社会の木鐸として、未来を切り拓くことを念じ、「L ebe so,wie du denkst!(爾が考えている如く生きよ!)」を、 餞はなむけの言葉として贈ります。

2020 年弥生 平泉の墳墓の地に帰りし父に捧ぐ

燕雀荘蔵垢子

「人民網日本語版」2020年6月17日

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