四.徐 一平先生
1.論文応募の全体印象
今回の応募論文の中で、言語部門の論文は11本、全応募数(33本)の三分の一を占め、大学日本語卒業論文の中の言語部門の論文が占める割合が減り始めているのではないかと感じた。これはある意味では、いいことかもしれない。つまり、各大学では、言語部門以外の論文が指導できる先生が増えているということになるだろう。
応募論文の内容からみると、中日対照研究3本、学習者能力3本、文体、音声、フェラー、語用論、教育学などそれぞれ1本ずつ、同じ言語部門とはいえ、研究の範囲や視点はかなり広くなっていると思われる。
2.入賞論文のテーマについて
今回から、審査方法が変わり、事前の審査により、入賞できそうな5本に絞り込む方法がとられた(連絡の理解がまちまちだったようで、言語部門では最終的に私が選んだ5本が最終審査の5本になった)。最終審査の段階で、三人の審査委員が一等賞と意見の一致が得られたのは、アモイ大学嘉庚学院から推薦された「日本語における文体シフトについて―ドラマの会話を研究資料として―」という論文であった。この論文は、普段の日本語教育の中で、日本語は文体の一致が要求されるのだが、しかし、日本人の日常会話の中では、必ずしもそれが一致しているわけではないということに目をつけ、実際のドラマにある会話文をデータに、日本人が会話の中でどのように文体を変えたりしているのかを研究した。そこから得られた結論は、今後の日本語教育の中では大いに参考になるのではないかと思う。そして、二等賞、三等賞に選ばれたのは、中国人民大学から推薦された「『まあ』の機能と生起制限について」と湖南大学から推薦された「漫才のフレームワークからみる日本のユーモアのメカニズム」であった。そして、最終審査に絞られた他の論文について、「努力賞」を与えることになった。言語部門に「努力賞」と選ばれたのは、合肥学院から推薦された「シャドーイングを利用した日本語アクセント矯正法の実証的研究」と華南師範大学から推薦された「好意に対する断り表現に関する研究―上級日本語学習者と日本語母語話者の比較」である。これらの入賞作品のテーマからみると、学士論文の成否は、やはりテーマの選定如何に関わるのだと審査委員は、一致した見解になった。
3.論文コンクールの在り方について
近年の応募論文と応募大学から見れば、この論文コンテストを非常に重視する大学が現れているということは非常に喜ばしいことだと思う。ただ本来応募すべき大学が抜けたり、もともと応募していた大学が応募しなくなったりする現象はやはり存在しているので、主催者としては、応募の呼びかけや応募の方法などについては、もう一度見直す必要があるのではないかと思う。
また、今の学生はコンピュータで論文を書いているので、直ぐ数万字や十数万字になってしまう論文はよくある。学士論文のレベルとそのような論文を書く目的から考えると、論文字数の上限を決める必要があるのではないかと思う。