六.宋 協毅先生
今年は第14回日中友好中国大学生日本語科卒業論文コンクールの主催者側から信頼されて、最終審査の受任校としてその任に当たると同時に、社会・文化部門の審査委員として審査に加わったので、所感を述べさせて頂きます。
さて、昨年の第13回目の当コンクールの審査員としての所感では、私が審査に関わった文化・社会部門の応募論文について、「私を含めた審査員たちは皆今年の応募論文の完成度の高さと学生の知識の広さなどに改めて感銘を受けました。......小野寺先生が率いる特定非営利活動法人日中友好市民倶楽部の皆様の苦心はここで大輪の花が咲き出しているということも分かりました」とありましたが、今年の第14回の論文に触れる前に、受任校として、論文の最終審査の過程をつぶさに目のあたりにしながら、中国の日本語教育レベルの向上のために只管奮闘努力されている小野寺先生に抱える敬意はまさにひとしおでした。
今年の文化・社会部門の応募論文のテーマといえば、例えば、アニメーション作品から見る日本の癒し文化、視聴率の高いテレビドラマのテーマの中日対照研究、日本の異文化受容に関する一考察―文明開化期における世相変容を対象に、食文化に見られる中日両国の考え方の相異——刺身とお寿司などの料理を例に、熟年離婚について、高度経済成長の終焉期以降における日本家族つながりの変化、吉野作造の中国認識——五・四運動を背景に、弘安の役における日本勝利の原因-鎌倉武士団と元帝国軍の比較分析-、『日本外史』における平清盛の人物像、「満洲国」時代の日本ジャーナリストの光と影――大内隆雄の中国文化評論を中心に――など、昨年の論文で視野が広がったなと驚嘆した以上に、今年の論文はさらにその視野が広がっており、実に多岐に亘っています。そして、学生たちの問題意識の持ち方や、問題解決の力も年々改善しているという実感を持たせてくれました。日本人の芸能文化の研究から、衣食住や冠婚葬祭にまで研究の目を光らせるのみならず、昨年一等賞に輝いた山鹿素行思想研究のような思想史、文化史的な論文も何本もありました。それに昨年の一等奨論文のような「一見して普通の日本人も書けなさそうな内容と文章力があり、まさに驚嘆せざるを得ない」ものは今年は何本というか、文章力だけからいえば、今年の応募論文の殆どがそれに匹敵するほどのものばかりでした。
ところで、今年の応募作品の問題と言えば、前述のように長年来審査員を悩ませて来た古い問題としての基本的な語学力の欠如によるミスが大分目立たなくなり、目にする論文は殆ど論文の起承転結から、文章の書き方そのものまで完成度は非常に高く、目を疑うようなものばかりで、本来なら喜ぶべきものだが、審査員一同は皆応募論文の作者としての学生よりも、その指導教官の手がかなり入ったのではないかという心配が払拭できず、それに、ページ数が遥か100枚以上に上る大作まで現われ、その半分ほどのページ数の論文も多数あり、無制限に枚数で勝負しようとする傾向も思いやられると言わざるを得ません。これに比べれば、参考文献と注釈の不備や、引用の不明確などの問題は取るに足らないほどでした。
最後に、来年も再来年も学生中心の素晴らしい応募作品を数多く審査できることを期待して止みません。
以上、簡単ながら所感をまとめさせていただきました。