そんな『兄弟』は昨年、 日本で舞台になった。創立から50年以上の歴史を持つ劇団・東演が舞台化し、二週間にわたって下北沢の客席約70人の劇場で公演をしたのである。もちろんわたしも観に行ったが、自分の翻訳したセリフを俳優さんたちが口にしてくれことも感動ながら、中国の大河ドラマともいえる四十年間に及ぶ『兄弟』の物語が日本で舞台になったことに、なんともいえぬ深い感慨を覚えた。わたしの斜め後ろに座っていた大学生らしき若い女性は、幕が下りた時には号泣していた。原作(わたしが翻訳した本)は読んでいないというから、純粋に舞台を見て、涙が抑えられないほどに感動したのである。中国語の小説が日本語になり、それが日本語の舞台になり、それを見た観客の涙を誘う。自分の翻訳がそこに介在していることに、翻訳者として、これまでには体験したことのない新たな感動、喜びを感じた瞬間であった。インターネットなどを見ると、舞台化が話題になり、あらためて本を読みなおしてくれた読者もいたようである。この舞台は『朝日新聞』の劇評などにも好評され、千秋楽までほぼ連日満員の大盛況であった。中国のことに詳しいとは言えない俳優さんたちが、実にいい味を出して中国人の登場人物を演じていたのはもちろん、脚本、演出の力も大きい。あれだけの長編を1時間45分という時間の中に見事に収め、その世界のなかにとりこんで感動させる脚本、演出家の力には脱帽である。余華本人も伝えたが、彼に見てもらえないのがとにかく残念でならなかった。
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