事故から5年が経ち、その「後遺症」は、子供の甲状腺ガン多発だけではなくなっている。人々が最も怒りを覚え、懸念を示しているのは、異常なほど楽観視している日本政府の姿勢や真相が消されている事実だ。
事故の処理には何年かかるのか?生態環境にはどれほどの影響があるのか?除染はどれほどすすんでいるのか?廃棄物は最終的にどのように処理するのか?事故発生後、福島をめぐる疑問は途切れることがなく、その答えを得るどころか、疑問が増える一方になっている。日本は、意識的にか無意識のうちか、事実を過小評価し、その感覚が関連の国際機関や専門家にまで伝染している。今回の事故は、人類史上2度しか起きていない、国際原子力事故評価尺度(INES)が評価する最も深刻な「レベル7」に当たる事故で、各国の専門家はその影響をほとんど知らないのが現状だ。
日本政府は意識的に事故の影響を過小評価しているのは、各種政治的圧力や日本に対するイメージが崩れるのを避けるためだ。特に、海外で、2020年の東京五輪開催は安全なのかという声が上がらないようにしている。確かに、国のイメージや食品の安全、観光への影響、原子力をめぐる政策、医療保険の負担、公害訴訟など、日本政府は多くの懸念材料を抱えている。しかし、どれも、事実を隠す理由には決してならない。
国際的にも、道義や責任感に欠けている。日本政府は2013年8月、福島第一原子力発電所から、1日当たり少なくとも300トンの汚染した地下水が海に流れ込んでおり、この状況は事故後ずっと続いていた可能性があると認めた。ところが、同年9月、安倍晋三首相は、IOC総会でなされた東京招致委員会のプレゼンテーションの中で、「状況はコントロールされている。まったく問題ない」とPRした。実際には、東京五輪開催決定後も、放射性物質汚染水漏れのニュースが何度も流れた。福島県の地方議会は、安倍首相の発言に書簡で抗議し、「事実に沿わず、重大問題」と指摘した。
国立研究開発法人・日本原子力研究開発機構(JAEA)は11年4月、放射性セシウムの今後30年の拡散状況をコンピューターでシュミレーションし、海流に乗って5年後には北米にたどり着き、10年後にはアジア東部に戻り、30年後には太平洋全体に拡散するため、その影響に長期的に注目しなければならないと指摘した。日本福島大学環境放射能研究所の青山道夫教授も15年、事故で海洋に放出された放射性セシウム800テラベクレル(テラは1兆)が北米大陸の西海岸に到達するとの予測を示した。事故で放出した主な放射性物質はセシウム137で、青山教授は、「現在、唯一できることは環境中の放射性物質の濃度をモニタリングし、魚類の体内に蓄積する危険に関して、警告を発すること」としている。