【第11回】思いを伝えるのは難しい
40を過ぎた自分は、しょっちゅう学生の前で偉そうな話をしているなあと反省する。長く生きている分、学生たちと比べれば多少仕事もできるようになった。だから、学生たちの青臭い部分を見た途端に偉そうな話をし始めてしまうのだ。無意識に…。
とにかく、言いたいことを言うのは難しい。相手を傷つけずたり、怒らせたりせずに自分の気持ちを上手に伝えるのは実に難しい。特に相手が年上だったり、上司だったりした場合、相手は偉そうな態度で話してくるだろう。そうなると、受け答えだけじゃなく、その場一瞬一瞬の空間がストレスになってしまう。油断などしたら、もうそれで終わりだ。
偉そうにしている相手の話を5分以上聞いていると、一応相づちを打ってはみるものの、ほとんど耳に入ってこなくなる。だから、いきなり意見を求められたら困るだけ。なにせ、何も聞いてないのだから。もちろん、人前では毒づいたりはしないが、家に帰ってベッドに潜り込んだら、うなされたり、眠れなかったり、ひどいうつ症状がはじまる。だったら、言いたいことをはっきり言ったほうが良いに決まっていると思うかもしれない。が、そう簡単にはいかない。本音を言えば、「そんなつまらない話はもうやめましょう!」となるが、素直に本音の部分を表現したら最悪の結果が待っていることは、わざわざ言わなくとも、誰にだって想像つくだろう。
だから、「大人とは、ただただ我慢するものだ」と信じている人もいる。いや、そう思うのが普通かもしれない。ところが、つまらない上司とも面白おかしくやっている人もたまに見かける。そんな人を見ると、「あいつは天才か?」と思ってしまうが、実は天才と呼ばれている本人だって、綱渡りで闘っている。心理学やら交渉術やら使えそうな知識や技術をとことん学び、実践でも相当もまれている。会話は技術なのだ。
自分は人と話すのに向いていない、とあきらめてしまっては一生の損。マスターするのに、誰だって30年はかかると思えば、今すぐあきらめる必要などないだろう。
最近つくづく思うのは、相手と話を始める時に一番良いのは、自分自身でキャラ設定をしてしまうことだ。キャラ設定をしていないから、いつも答えが揺れてしまうということはないだろうか。もしそうなら、相手が求める回答を常に出すことはできないだろうし、相手だって、君にどんな質問をして良いかわからないだろう。つまり、会話にならないというわけだ。
だから、相手が本題に入る前に、「あっ、すみません。実は、僕はよく極端なことを言ってしまうことがあります。そんなときはすみません、悪い癖が出たと思って許してください」と言ったり、「あっ、すみません。僕は一見おとなしそうな人間だと思われるのですが、意見をちゃんと持っているので、最後の最後に僕の意見も言わせてください」と言ってみたらどうだろう。もし、君がキャラ設定をちゃんとしていれば、相手は安心して話ができるだろう。では、最初に言い忘れてしまったらどうすれば良いか。
それはさすがに困るか? いやいや、そんなに神経質になることもない。途中で、「あっ、すみません。最初に言い忘れていましたが、実は、僕はよく極端なことを言ってしまうことがあります。そんなときはすみません、悪い癖が出たと思って許してください」と言えば済むはずだ。
確かに、会話というのは、それほど簡単なものではない。しかし、キャラ設定さえできていれば、たぶん、会話問題の3割くらいは解決できたと言って良いだろう。もし、もっと良い方法があるのなら、どうか教えてもらいたい。
>>>>中国語訳文
>>>>笈川幸司先生の紹介
「人民網日本語版」2013年2月20日