その中で唯一欠けているのが経済成長である。紙幣の乱造の結果は、通貨の値下がりである。増刷の規模は2013年には50兆円、2014年には80兆円にまで拡大した。日本の年間税収は約40兆円である。市場にこれだけの通貨が出回れば、通貨が値下がるのは当然だ。外貨を日本円に替える際、これまでは1ドルが80円だったのが、現在は120円である。海外で同じ金額を稼いでも、日本にもっていけば30%多くなる。そうなれば企業の株価は自然と高まる。だがこれは住民の消費や企業の投資、製品の輸出とは何ら関係ない。日本が経済成長の実現が難しい状態にあるのは変わらない。
▽縮小する消費、振るわぬ輸出
日本経済の成長が難しい大きな原因の一つは、労働人口の減少や高齢化などにある。こうした大きな環境が変わらなければ、経済を発展させようにも実現は困難となる。
社会構造の転換が難しい状況下、経済政策の重点は既存の条件をいかにうまく活用するかにある。例えば住民の消費を促進することによって、企業の投資を促し、良好な国際取引の環境を作って、本国の製品や技術、資本の輸出に便宜をはかるなどの措置である。だが安倍内閣はこれと反対の方向に進もうとしている。
消費の面では、2014年に消費税率を引き上げ、日本の国内市場に大きな打撃を与えた。安倍内閣にはまさに「想定外」の状況であった。日本経済が円安の勢いに乗りきれないうちに、株式市場の回復を受けて消費税率の引き上げを断行したことは、消費をさらに落ち込ませる結果となった。日本内閣府の推計によると、消費税引き上げを受け、昨年4月からの半年で、個人消費は少なくとも1兆円落ち込んだという。
消費がなければ、設備投資も問題にならない。パナソニックが国外の生産拠点の一部を国内に戻し、日産も日本での生産を増加したという。だが企業が設備を増やし、新たな生産ラインに大幅な投資をしているという話は聞かれない。円安の機会を利用して、国内の余剰生産能力を発揮させようとしているにすぎない。設備投資の面では、ほとんどの日本企業は慎重な態度を変えていない。