この「申し訳ない」という言葉は単なる謝罪の言葉だろうか?当然異なる。この言葉には、「恩に感謝すること」という日本文化の一大要素が反映されている。日本が第2次世界大戦後の廃墟の中から経済、社会を急速に発展させ、世界の強国に復興したのは、このことと密接な関係がある。
日本文化を語る上で避けて通れないのは米国の文化人類学者ルース・ベネディクトの日本人論「菊と刀」だ。この本の第5章には、「過去と世間に負目を負う者」という見出しがつけられている。ルース・ベネディクトの論説によると、日本人は恩に報い、感謝することを非常に重視し、また、感謝する対象は明確で、幅広く、具体的だという。実際、日本人の観念によると、人と人との間には恩恵を与える人と、恩恵を受ける人という必然的な関係性が存在する。恩情は一種の債務であり、必ず返さなくてはならない。恩を知り、それに報いるのは人が必ずやり遂げなければならない義務なのである
日本人は社会は人から成るものであることを非常に明確に理解している。「日本資本主義の父」と呼ばれる渋澤栄一の言葉によると、「自分が手にする富が増えれば増えるほど、社会の助力を受けているのだから、その恩恵に報いるため、できるかぎり社会のために助力しなければならない。国や社会を忘れることは下等動物との差異がないことだ」とある。このように、日本代表チームがお辞儀をするという行為は、サポーターの期待に応えられなかったことを誠実に謝罪するだけではなく、サポーターに対する深い感謝の気持ちを示したもので、これこそが日本文化を象徴するものだ。
このため、広い意味で言うと、恩に感謝することは日本の核心的な価値観の1つと言える。東京のJR渋谷駅前にある「忠犬ハチ公」の銅像がこの文化を体現している。日本経済が躍進する中で生まれたパナソニックの創業者・松下幸之助の経営哲学にも、企業は貢献してくれた職員に感謝すべきであり、職員もまた自分の人生の発展に寄与する会社に対して感謝すべきであるという献身の重要性を強調している。