鳩山氏の退陣から菅直人氏の就任は、中日経済貿易関係さらには中日関係にとっての大きな転換点となった。基地問題によって悪化した日米関係を改善し、前政権との違いをはっきりとさせるため、就任したばかりの菅首相は所信表明演説でTPP協定交渉への参加を突如表明し、鳩山氏の東アジア共同体構想は棚上げとなった。
2010年9月の菅首相による正式なTPP交渉参加表明以来、日本国内のメディアはTPP擁護の社説を次々と発表した。TPPへの参加を19世紀半ばの黒船来航による開国に匹敵する「平成の開国」と持ち上げるメディアもあった。
菅氏の後任として日本の首相となった野田佳彦氏はさらに踏み込み、月刊誌『Voice』に2011年に発表した論文「わが政治哲学」で、「いまこの時期に東アジア共同体などといった大ビジョンを打ちだす必要はない」と主張し、中日協力の強化という鳩山政権の戦略方針を真っ向から否定した。日本の外交モデルはこうして、自民党政権時と同様の隠れたイデオロギー外交へと回帰することとなった。
野田氏はTPP交渉参加を表明した際、「日本は貿易立国で今日の繁栄を作り上げた。次の世代に今の財産を残し活力に満ち溢れた社会を発展しつづけようとするなら、アジア太平洋地域の経済成長のパワーを取り入れなければならない」(2011年11月11日、野田内閣総理大臣記者会見)と強調した。このやり方は同時に中国側から強い不信感を招いた。というのは、わずか一年ちょっと前に、日本は中日韓を含む東アジア共同体の構築を固く誓うかのように提起したばかりだった。だが一年後、その考えが大逆転して、日本で再び米国に歩み寄る発想が強まったからだ。
日本国内の新聞社も、「もし日本が最終的にTPPに加入するならば、それはGDP世界№1と世界№3による大国提携を意味することだ。日米のGDPを足すと、加盟国全体の約8割を占める」と指摘した(2011年11月10日付『日本経済新聞』)。
では、日本がTPP加入を強く望んでいる本当の理由は何か。日本『読売新聞』2011年の社説では、「TPPに加入すれば日米同盟を強化し、経済や軍事の面で影響力が日々拡大する中国をけん制することができる。この点も極めて重要だ」と指摘。外交・安全保障国防事務専門家として野田首相官邸に招かれた長島昭久首相補佐は東京で行われた講演の中で、「TPP交渉への参加は中国側に『日本を見下してはいけない』という戦略的環境を作り出すためだ。我々は『アジア太平洋地域の秩序を日米によって構築する』という前向きな視点を持たなければならない」と率直に述べた(2011年11月付『日本経済新聞』)。