〇激しく嗚咽しながら実験の様子を語った七三一部隊の元隊員
七三一部隊は、捕まえた捕虜を「マルタ」と呼び、捕虜のひとりひとりに3桁の番号を振った。捕虜には名前など不要というわけだ。彼らは、単に言葉を話す、生きた「実験材料」に過ぎなかった。
「悪魔の飽食」には、青酸カリの毒ガス実験の対象となる母と娘が登場する。この実験は、様々な毒ガス、あるいは同じ毒ガスの異なる濃度といった環境の違いによる人間の生存時間の違いを調べ、日本軍に毒ガス戦のための資料を提供することを目的に行われた。母と娘を同時に実験室に入れて、成人と子供がそれぞれ、同じ毒ガスでどれくらいの間「持ちこたえられるか」をテストした。母親は、毒ガスが密閉された実験室に充満しているのを見て、娘の頭を地面に押し付け、自分の身体で娘を護ろうとした。しばらくすると、先に娘が、後を追うように母親が息絶えた。
森村氏は、取材に対して次のように話した。 毒ガス実験について言えば、当時、毒ガス室の外に立ち、ストップウォッチを握り、母と娘が息絶える時間を計る兵士がいた。その兵士は、当時の様子を振りかえり、涙を流し、両手のこぶしを握りしめていた。彼にも妻と息子・娘がいるが、冷静に母と娘が息絶える時間を計測したという。人間がそんなことをできるなど信じられるだろうか?元兵士が当時を振り返った瞬間、彼に人間性が戻ってきた。
終戦後、兵士らはやっと人間に立ち戻った。彼らの多くは、戦後症候群を患った。戦争が終わって初めて、彼らは、自分たちが戦争中に行ったことが、悪魔の行為そのものだと認識した。ほとんど全員が反省した。戦争は、人間を精神的に人間でなくならせる。人間は戦争中、非人道的な精神世界を構築するようになる。
森村氏は、著書の中で、「私たちも、七三一部隊の延長線上に立っている。再び戦争が始まるようなことがあり、同じ状況に立たされれば、当時の彼らと同じような残酷極まる悪魔の行為をする恐れがある」と読者に警告を発している。