3. 文学部門審査委員の所感
「継続は力なり」、十八年続いてきた中国大学生日本語科卒業論文コンクールはまさに大きな力と化し、中国の日本語教育現場に多きな影響を与え、教育改善を促した。その結果として、コンクールに推薦された論文は年々質が高くなり、中国の日本語教育レベルの全体的な向上が反映されていると思われる。十八年間、本コンクールに心血を注がれた小野寺先生に深く感謝する。
今年、文学部門の推薦論文数は十三本で、その全体的な特徴として、バランスの取れたことが挙げられると思う。
先ずは、数年前までの文学離れの時期と比べ、論文本数が着実に増え、他の部門とも全体的にバランスが取れた状態が安定的に続いていることが挙げられる。
次は、文学部門内においても、近現代文学に関する論文と古典文学に関する論文ともバランスが取れた状態である。数年前までは、古典文学に関する論文が圧倒的多くて、一時は三分の二以上占める割合となっていた。指導教官の研究分野に左右される場合が多いと思われる。今年、全国日本語教員優秀論文賞の応募論文は、依然として古典文学の研究に集中しているが、学部生には、古典よりもやはり近現代研究に関する論文を書くのがより自然で、より相応しいと思う。
また、論文の研究対象も夏目漱石や樋口一葉などの著名作家の作品から漫画やアニメまで、実に豊富多彩で、バランスが取れた題材である。地域的にも、沖縄問題から北海道のアイヌ族まで、実にテーマが多様性を呈した論文である。
文学部門の一等賞受賞論文「新聞小説としての『三四郎』」は、夏目漱石の代表作の一つとして、多くの先行研究があるにもかかわらず、挿絵の機能、時事的な性格、連載として毎回読者の期待の喚起など、独自の視点で論を展開し、独創性、論理性合性、日本語表現のいずれも優れており、高く評価に値する。学部生の論文はややすると、新しい理論や研究方法に目掛けて、独りよがりの理論先行に陥りかねないに対し、もう一方は、または内容にしても文体にしても感想文のようなもので、事実や自分の思いを述べるのみに止まり、論文らしい論文にはなれないものも多く見られる。それに対し、この論文は研究分析にメディア論の視点を導入し、新しい視点よりチャレンジする一方、「朝日新聞」のデータベースにおける『三四郎』の縮刷版を利用し、小説の挿絵や当時リアルタイムで『三四郎』に綴られた社会的な事件を地道に精査し、作品解読に努めた。資料の精査に基づく論拠と理論的な解析に基づく論点がバランスよく論の展開に機能し、完成度の高い論文となったわけである。
今後、本コンクールにおいて、また、多くの中国大学の日本語科において、このような優れた卒業論文が拝読できることを楽しみにしている。
(北京第二外国語大学 邱鳴)
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