しばらくの間というもの、フィリピンの申し立てで設けられた南中国海仲裁裁判所による権限の拡大と乱用を問題視し、警戒する声が上がっている。仲裁裁判所は基本的事実を無視し、国連海洋法条約を含む国際法に違反し、管轄外の領土・海洋境界画定問題に手を伸ばした。これは国際紛争の平和的解決という国際法の趣旨に違反し、国際法治を深刻に損ない、摩擦を激化するものであり、南中国海の平和・安定の助けにならず、その意図は悪辣で、公正でない。(人民日報「鐘声」国際論評)
この仲裁裁判所を国際司法裁判所など国連の正式機関と同一視して、いわゆる「神聖性」を与えようとする論調が現在世界にはある。実際には、仲裁裁判所はフィリピンの一方的な申し立てにより設けられた一時的機関だ。仲裁裁判所の仲裁員5人中4人は欧州出身で、世界各地の異なる法体系を代表するものではない。さらに5人中4人は2013年に当時の国際海洋法裁判所所長だった日本人の柳井俊二氏によって選定された。東中国海をめぐる中日間の争いを考えると、柳井氏は法に基づき避けるべきであったが、この事実を故意に無視した。これは手続き上の正義に明らかに違反する。法廷尋問における仲裁員の発言を見ると、彼らは南中国海における中国の歴史的事実について理解を拒絶するだけでなく、偏見を抱き、中国の合法的権益を意図的に無視した。このような姿勢は客観性、中立性を全く欠くものだ。
仲裁裁判所は設置初日から権限拡大を図り始めた。周知のように、南中国海をめぐる中比の争いの核心は領土と海洋境界画定の問題だ。領土問題は国連海洋法条約の調整範囲に含まれず、中国も2006年に国連海洋法条約第298条に基づき、海洋境界画定紛争を強制紛争解決手続きの適用から除外すると宣言した。国連海洋法条約に基づき設置される一時的機関である仲裁裁判所には、この問題について全く管轄権がない。仲裁など国際司法を通じて争いを解決することは、本質的に第三者の解決制度に訴えるものだが、これはとうに中比双方により排除されている。中比間には交渉と協議を通じて争いを解決するとの共通認識がある。これは両国間の一連の文書に反映されているだけでなく、『南中国海における関係国の行動宣言』における厳粛な約束でもある。国連海洋法条約自体も第280条と281条で、紛争解決方法を締約国自らが選択する権利を尊重すると明確に定めている。仲裁裁判所はこれについて見て見ぬふりをし、国連海洋法条約の強制紛争解決手続きの前提条件、除外と例外を突破し、自ら管轄権を得る目的を達するため、紛争解決方法についてのこれまでの中比の共同の選択を悪意をもって解釈し、国家間の合意を安易に否定した。これは中国が主権国家および国連海洋法条約締約国として有する、紛争解決方法を自ら選択する権利の重大な侵害だ。