矢野さんの教室の名は「BaRoon Workshop(バルーンワークショップ)」。一人一人の個性をカラフルな風船に喩え、それが空高く、国境を越えて自由に飛んでいってほしいという願いが込められている。自分のアトリエなどは設けておらず、街のカフェやレストランで毎回テーマを決めてワークショップを開いている。中国語には自信があったが、日本語の「サクサク」、「チクチク刺す」、「クルクル巻く」といった擬音語の中国語表現が分からず、疲れ果てるほどジェスチャーを繰り返して指導した。人集めも、当初は中国のチャットツールのウィーチャット(WeChat)で募集し、やっと人が数人来る程度だったが、その後口コミでも広まり、今では常に5人から10人程度の生徒が集まるようになった。
作り方は至ってシンプルなのだが、針で刺す過程で誤って指を刺してしまうことが多々ある。矢野さんは指を穴だらけにしながらも、作品作りの楽しさのあまり痛みも忘れてしまう。「やり直しが非常に簡単なことに加え、人形やポーチ、アクセサリーやスリッパ、キーホルダーなど、身の回りのもの何でも作れてしまうんです」と目を輝かせる。最終的に出来上がった作品が、デザイン画やイメージと少し違ってしまうこともあり、一部の人からするとそれが羊毛フェルトの難しい点のようだが、矢野さんにとってはそれもまた「サプライズを与えてくれる羊毛フェルトの魅力」だ。