【第116回】ストライキ( 総論)
「毎日経済新聞」、「21 世紀経済報道」、「日本経済新聞」など中国と日本の主流新聞メディアで報道され、ウェブ上でも議論されたホンダストライキ事件は、労使賃金交渉の「パンドラの箱」を開けたと言っても過言ではありません。
ストライキ(中国語:罷工)は、複数の従業員が明確な目標の下、組織的に労働を拒否し、企業の正常な経営に影響を及ぼすものです。日系現地法人は(1)関連法規定の欠如及び法律と実務との乖離(2)日中両国の歴史問題と政治問題に起因する民族感情(3)日中両国の文化差異の下での日本人管理者と従業員とのコミュニケーション問題--というマクロ的な環境に身を置きつつ、賃金、厚生福利等の問題に対してますます敏感に反応する従業員に対応しなければなりませんが、その対応は非常に難しいものがあります。その上、インターネット、メディア等を経由して問題がいきなり公になる情報化社会の怖さにも十分心構えをしなければなりません。したがって、賃金上昇を目的とするストライキは、次から次へと広げていく現象に鑑み、どの会社も直面せざるを得ない大きな労務管理のアキレス腱になるといえます。
中国の現行法には、労働者のストライキ権利を認める明確な法規定はなく、労働組合によるストライキの発動、組織についての権利義務も与えられてはいません。しかし、ストライキについての法規定が欠如しても、「労働者階級の先鋒部隊組織」である中国共産党は、一般的な理解としては、労務クライシスの場合(政治上の要請ではなく)のストライキ権利を基本的には許容するという姿勢を取ることになります。特に国民収入倍増計画を打ち出した中央政府にとっては、労働者の賃金上昇要求に対して、政策論の支持を与えることになると予想されます。一方、「すべてのものに安定を」という原則は、各地方レベル政府の任務である以上、ストライキの拡大をコントロールすることが地方政府の指針となります。上記中央政府の政策論の影響を受けて、この地方政府共通の指針の下においても、ストライキ事件に対する各地方政府の処理には温度差が存在すると思われます。